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胆のうがんをゲノム解析、「微小環境活性化」の有無が再発率などに影響-理研ほか

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2021年02月25日 PM12:00

胆のうがんの予後に関連する遺伝子や変異は?

理化学研究所は2月22日、日本人胆のうがんの全ゲノムシーケンス解析などを行い、胆のうがんの予後に関連する遺伝子やその変異を同定し、その発がん機構の一端を解明したと発表した。この研究は、同研究所生命医科学研究センターがんゲノム研究チームの中川英刀チームリーダー、北海道大学大学院医学研究院消化器外科学教室IIの江畑信孝大学院生(現がんゲノム研究チーム客員研究員)と平野聡教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Cancers」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

胆のうがんは、胆のうの上皮細胞から発生した悪性腫瘍。一般的には、胆石症や慢性胆のう炎が発生リスクとされているが、発がん機構の詳細はいまだ不明だ。世界的にみるとまれながんだが、アジアや南米において高い頻度で発生し、日本では1年間に約8,200人が発症している。転移や浸潤しやすく、周囲に重要な血管が存在する複雑な部位に発生するため、進行胆のうがんの根治的手術は難しい。切除できないことも多く、その場合は5年生存率が3%しかない。また、非切除例や再発例に対する有効な治療法がないことから、全体での5年生存率は25%と極めて難治性のがんだ。

がんはゲノムに変異が蓄積することで発生し、進行するゲノムの病気だ。胆のうがんにおいても、これまでがん抑制遺伝子TP53の変異など、さまざまな遺伝子変異が同定されている。しかし、病理学的にも遺伝学的にも多様性に富んでおり、ゲノムが関わる発がん機構はまだ解明されていない。また、がんのゲノム変異を標的とした分子標的治療法や個別化治療のためのゲノム変異マーカーの開発も不十分だ。そのため、胆のうがんサンプルを用いた全ゲノムシーケンス解析により得られるゲノム異常情報と、臨床病理情報との関連を検討することが求められていた。

腫瘍微小環境や免疫細胞が活性化した群では、TGF-βシグナル関連分子の変異や発現異常を観察

研究グループは、北海道大学病院で切除手術を行った36例の胆のうがんの切除サンプルと正常組織からDNAを抽出し、次世代シーケンサーを用いて、全ゲノムシーケンス解析またはエクソーム解析を行い、遺伝子変異を探しました。また、同時にサンプルからRNAを抽出し、非コードRNAを含む網羅的RNA発現解析も行い、胆のうがんの分子生物学的特性を調べた。その結果、胆のうがんはAとB、2つの群に分類できることがわかった。B群は、A群に比べて極めて予後不良、再発傾向が強く、間質に活性化した線維芽細胞と免疫抑制機能を持つ免疫細胞が多く観察された。

また、遺伝子発現のパスウェイ解析を行ったところ、B群の胆のうがんでは、免疫、TGF-βシグナル、上皮間葉転換(ETM)に関わるパスウェイが活性化していることが判明。さらに、A群とB群との間で非コードRNAの発現を比較したところ、B群で複数のマイクロRNAが高発現していた。そこで、その一つ「miR125B1」を胆のうがん細胞株で欠失させたところ、浸潤能の低下、EMT活性、免疫関連機能、TGF-βシグナルパスウェイの低下が確認された。

遺伝子変異解析では、TP53遺伝子、ELF3遺伝子、SMAD4遺伝子の変異が見出されたが、特にB群の胆のうがんにおいては、TGF-βシグナル関連分子の変異が多数検出された。したがって、これら変異を介して、TGF-βシグナルパスウェイが活性化し、EMTへの誘導、腫瘍微小環境の形成、免疫抑制の誘導が行われていると考えられた。

胆のうがんの早期診断法や複合免疫療法開発への貢献に期待

今後、同研究で得られた胆のうがんのゲノム情報を用いることで、胆のうがんの詳細な分子生物学的分類が進展し、その分類に応じて治療方針を決定する個別化医療(がんゲノム医療)が進むものと期待できる。

「今回のゲノム解析により同定した胆のうがんの悪性度や予後に関わるさまざまな遺伝子変異や発現異常、そして免疫的な変化は、早期診断法や効果的な治療法がない胆のうがんに対して、これらを標的とした新しい治療法、特に複合免疫療法の開発に貢献すると期待できる」と、研究グループは述べている。

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