ALS患者iPS細胞から作製の運動ニューロン画像を用いたDeep Learning
理化学研究所は2月24日、Deep Learningを用いて、健常者のiPS細胞から作製した運動ニューロンと筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者から作製した運動ニューロンを高精度に見分ける人工知能モデルの構築に成功したと発表した。この研究は、同研究所革新知能統合研究センター(AIP)iPS細胞連携医学的リスク回避チーム(上田修功チームリーダー)の今村恵子客員研究員(京都大学CiRA増殖分化機構研究部門特定拠点講師)、理化学研究所バイオリソース研究センター(BRC)iPS創薬基盤開発チーム特別研究員、京都大学CiRA増殖分化機構研究部門共同研究員の矢田祐一郎氏、理化学研究所AIP iPS細胞連携医学的リスク回避チーム客員主管研究員で、京都大学CiRA増殖分化機構研究部門教授、理化学研究所BRC iPS創薬基盤開発チームチームリーダーの井上治久氏らの研究グループによるもの。研究成果は、米国科学誌「Annals of Neurology」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
ALSは進行性に筋力低下をきたす、難治性の運動ニューロン疾患。ALSの臨床診断は、筋力低下や腱反射の亢進などの神経学的所見に基づいて行われるが、これらの所見は病状が進行するまで顕在化しないことが少なくない。ALSでは、承認されている治療法や、今後新たに開発される更なる有効な治療法のためにも、速やかな診断が重要であると考えられる。さらに、運動ニューロンの微かな変化を検知することは、速やかな修復を行うために必要だ。
今回の研究では、ALS患者のiPS細胞から作製した運動ニューロンの画像を用いたDeep LearningによるALSの予測に取り組み、ALSの診断をサポートするテクノロジーの開発を目指した。
罹病期間が長い患者の運動ニューロン、人工知能が見分けやすい傾向
まず、Deep LearningとiPS細胞由来運動ニューロンを用いたALSを予測する人工知能モデルを構築した。健常者15人とALS患者15人のiPS細胞から運動ニューロンを作製し、その運動ニューロンの写真を用いて人工知能に学習させ、ALSの患者の運動ニューロンを見分けるモデルを作製。
作製したモデルは高い精度でALS患者の運動ニューロンを見分けることができることがわかった。また、人工知能が運動ニューロンのどの部分を見て判断しているかについて、Grad-CAMという方法で調べたところ、運動ニューロンの細胞体と神経突起に注目していることが判明。
また、その見分ける精度と患者の罹病期間の長さとの間には関連がみられ、病気の期間が長い患者の運動ニューロンでは、人工知能が見分けやすい傾向にあることがわかったという。
今後、より多くの情報を拡充した研究が必要
今回、研究グループは、Deep LearningとiPS細胞由来運動ニューロンを用いた、ALSを予測する人工知能モデルを構築した。同研究は新しいモデルの実証研究だが、Deep learningはoverfittingなどのいくつかの解決すべき課題も残っており、今後、より多くの情報を拡充した研究が必要と考えられる。
同研究成果は、今後の人工知能とiPS細胞のテクノロジー融合による疾患予測と克服に貢献することが期待される、と研究グループは述べている。
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