cMoP選択的除去による新規治療法は?
東京医科歯科大学は2月22日、単球の源細胞を効果的に除去できる抗体-薬剤複合体(antibody-drug conjugate:ADC)を作製し、単球性白血病や固形がんの増殖を抑制する、副作用の少ない新規がん治療法を開発したと発表した。この研究は、同大・難治疾患研究所・生体防御学の樗木俊聡教授らの研究グループと、協和キリン株式会社、東京医科歯科大学血液内科学分野、横須賀共済病院血液内科との共同研究によるもの。研究成果は、「Frontiers in Immunology」オンライン速報版に掲載されている。
画像はリリースより
慢性骨髄単球性白血病(CMML)は、白血球の一種である単球が体内で異常に増加し、血液の正常な産生や機能が妨げられる、予後不良な血液のがん。CMMLの完治が見込める治療法として造血幹細胞移植が知られているが、移植前に行う放射線照射や強力な化学療法、さらには移植された造血幹細胞が患者の体を攻撃する免疫反応(graft-versus-host disease:GVHD)が患者の大きな身体的負担となる。加えて、CMMLは高齢者での発症が多く、移植前治療やGVHDに耐えられないため、造血幹細胞移植の適用とならないケースが多く存在する。このようなケースでは、白血病細胞を減らし、病気の進行を遅らせる治療が行われている。
しかし、既存の治療薬が効かない患者がいることや、副作用によって白血病細胞だけでなく、正常な血液細胞もダメージを受けてしまうことが深刻な問題となっている。
単球は血液中から腫瘍内に浸潤して腫瘍関連マクロファージ(Tumor-associated macrophage: TAM)へ分化する。TAMは、がん細胞の増殖や浸潤を促し、免疫細胞の機能を抑制するため、TAMを標的としたがん治療法の開発が世界中で行われている。しかし、TAMの多様性と優れた薬剤分解能のため、TAMを確実に除去することが困難な問題点が指摘されていた。
これまでに研究グループは、ヒト単球の源となる共通単球前駆細胞(common monocyte progenitor:cMoP)の同定に成功。cMoPは多数の単球を産み出すことができるが、単球以外の血液細胞へは分化しない。そのため、cMoPを選択的に除去することができれば、他の血液細胞に副作用を与えることなく、CMMLや固形がんの新規治療法につながるのではないかと考えた。
CD64発現の増殖性細胞を選択的に攻撃する「CD64-ADC」
研究グループは、ヒトcMoPに発現する300種類以上の細胞表面分子のスクリーニングを行い、CD64分子がcMoPや単球系列細胞に特異的に発現していることを見出した。
そこで、CD64を発現する増殖性の細胞を選択的に攻撃するように設計したADC(以下、CD64-ADC)を協和キリン株式会社と共同で作製。実際に、ヒト化マウスにCD64-ADCを投与したところ、cMoPを含む単球系列の細胞を劇的に減少させたが、他の造血・血球細胞の数はほとんど影響されなかった。これは、この薬剤の単球系列細胞への優れた作用と、単球系列以外の造血・血球細胞への極めて低い副作用を示唆しているという。
副作用の少ないCMML治療法につながる可能性
次に、CMML患者から得られた骨髄白血病細胞を移植して作製したCMMLモデルマウスにCD64-ADCを投与したところ、白血病単球が劇的に減少。一方で、全ての血液細胞の源である造血幹細胞の数は維持されており、副作用の少ないCMML治療法につながる可能性が示唆された。
さらに、ヒトの固形がん細胞株をヒト化マウスに移植して作製したヒト固形がんモデルマウスを用いて、CD64-ADCの効果を検討。CD64-ADC投与後、TAMがほぼ完全に除去され、その結果、固形がんの増殖が有意に抑制された。TAM自体ではなく、TAMや単球の供給源であるcMoPを標的とすることで、TAMの薬剤分解能や多様性に影響されることなく、TAMを除去する治療法につながることが期待される。
CD64-ADC、CMMLや固形がん治療薬となる可能性を実験的に証明
これまで特定の成熟血液細胞を標的とした疾患治療法の研究は多く存在していたが、特定の血液細胞を生み出す造血前駆細胞を標的とした治療法はほとんど研究されていなかった。1つの造血前駆細胞からは多種類かつ多数の血球細胞が供給されるため、造血前駆細胞を治療標的とすることは効率的な血液細胞の除去につながる一方で、大きな副作用を招く恐れがある。
今回の研究では、研究グループが過去に報告した、単球のみに分化するcMoPを標的にしたCD64-ADCを開発することで、単球系列細胞の選択的な除去を実現するとともに、他の血球系列細胞へ副作用をほとんど示さない方法を確立した。そして、CD64-ADCが、CMMLや固形がんの有望な治療薬となることを実験的に証明した。
単球や単球由来マクロファージは、炎症性腸疾患や関節リウマチ等の炎症性疾患、骨髄や肺の線維化等にも関与することから、今回の研究で確立した治療戦略は広い疾患適応と高い発展性を有している、と研究グループは述べている。
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・東京医科歯科大学 プレスリリース