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日本人2型糖尿病発症に関連するミトコンドリア遺伝子多型を同定-順大ほか

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2021年02月18日 AM11:45

MOTS-cのK14Q遺伝子多型と日本人の2型糖尿病発症との関係は?

順天堂大学は2月17日、日本人の2型糖尿病の発症に関連するミトコンドリア遺伝子多型を発見したと発表した。この研究は、同大大学院スポーツ健康科学研究科の膳法浩史協力研究員(東京聖栄大学講師)、福典之先任准教授ら、および佐賀大学と南カリフォルニア大学等の研究グループによるもの。研究成果は、「Aging誌」に掲載されている。


画像はリリースより

2型糖尿病は、国内で約1000万人の患者がいるとされ、心筋梗塞や脳卒中、がんの発症リスクを高める疾患だ。最近では、COVID-19の重症化リスクに関与する可能性も指摘されている。日本人は、欧米人に比べ肥満度が低いにもかかわらず2型糖尿病になりやすく、その理由は未だよくわかっていない。

ヒトのゲノムは、核ゲノムとミトコンドリアゲノムから成り、ミトコンドリアゲノムには地域ごとに特徴的な遺伝子多型が存在する。最近、ミトコンドリアゲノムからMitochondrial Open-reading-frame of the Twelve S rRNA-c(MOTS-c)という新規のペプチドが産生されることが発見され、これが骨格筋において血糖値を正常域まで下げる能力(耐糖能)を向上させることが動物を対象とした研究でわかってきている。

研究グループは、ミトコンドリア遺伝子上の日本人特異的な遺伝子多型(m.1382A>C)には、MOTS-cのアミノ酸置換(K14Q)が生じていることを先行研究で明らかにしてきた。そこで、今回の研究では、MOTS-cのK14Q遺伝子多型と日本人の2型糖尿病発症との関係を検討した。

リスク高の遺伝型、運動量が多いと2型糖尿病発症リスク低下

今回の研究では、日本多施設共同コホート(J-MICC)佐賀研究、アメリカ多人種コホート(MEC)研究(日系人を対象)、および東北メディカル・メガバンク計画(TMM)コホートの3コホート(計2万6,994人)を対象とした。

それぞれのコホートにおけるm.1382A>C遺伝子多型と2型糖尿病の発症率の関連を分析した結果、男性においてA型(日本人の頻度:約93%)よりもC型(日本人の頻度:約7%)を有する群の方が2型糖尿病の発症率が1.34倍高くなることを発見。一方、2型糖尿病リスクが高いC型であっても運動量が多い(毎日20分程度の早歩きが目安)と、このリスクが低いことが判明したという。なお、女性においてはm.1382A>C多型と2型糖尿病の関連はみられなかった。

MOTS-cのアミノ酸の違い(K14Q)が2型糖尿病発症に影響

次に、m.1382A>C遺伝子多型が2型糖尿病の発症リスクを高くするメカニズムを検討した。m.1382A>C多型は、ミトコンドリアゲノムの12SrRNA配列上に存在するが、この配列からMOTS-c(16個のアミノ酸で構成されている)も作られることが最近の研究でわかっている。m.1382A>C遺伝子多型では、このMOTS-c配列の14番目のアミノ酸残基がリジン(K)からグルタミン(Q)に変化する。

m.1382A>C遺伝子多型のA型の人は体内でMOTS-c 14K(リジン)ペプチドが作られ、C型の人はMOTS-c 14Q(グルタミン)ペプチドが作られる。このMOTS-c 14KペプチドとMOTS-c 14Qの耐糖能への違いを明らかにするために、それぞれのMOTS-cペプチドを3週間毎日投与したマウスに対して、ブドウ糖を与えその後の血糖変動を観察。その結果、MOTS-c 14Kペプチド(ヒトのA型モデル)を投与したマウスは血糖上昇が抑えられたのに対して、MOTS-c 14Qペプチド(ヒトのC型モデル)を投与したマウスでは、血糖上昇が抑えられなかった。

また、細胞実験においても、MOTS-c 14Kペプチド(ヒトのA型モデル)で培養した細胞はMOTS-c 14Qペプチド(ヒトのC型モデル)で培養した細胞よりも糖の利用度が高く、上述した日本人の疫学的データを裏付ける結果となった。

以上の結果をまとめると、ミトコンドリア遺伝子のm.1382A>C遺伝子多型のC型は2型糖尿病発症リスクが高くなること、2型糖尿病リスクが高いC型であっても運動量が多いと、2型糖尿病発症リスクが低くなること、m.1382A>C遺伝子多型によって生じると考えられるMOTS-cのアミノ酸の違い(K14Q)が2型糖尿病の発症に影響することが、今回の研究で明らかとなった。

肥満度「低」にもかかわらず日本人が糖尿病になりやすい一因を説明できる可能性

今回、研究グループは、ミトコンドリアから産生されるMOTS-cの日本人特異的なミトコンドリア遺伝子多型(MOTS-c K14Q)が2型糖尿病発症リスクに関連することを明らかにした。これにより、肥満度が低いにもかかわらず日本人が糖尿病になりやすい一因を説明できる可能性があるという。

今後、MOTS-cがどのようにして産生されるのかといった機序の解明や、糖尿病発症を予測するバイオマーカーとしての有用性を明らかにすることにより、個人の遺伝的体質にあわせた糖尿病の予防や運動療法、新規治療薬の開発につながることが期待される、と研究グループは述べている。

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