原発巣非切除で化学療法を行う治療に対し、原発巣切除後に化学療法を行う治療の優越性検証のP3試験
国立がん研究センターは2月10日、切除不能の遠隔臓器転移を有するステージ4大腸がんで、原発巣に起因する症状がない場合に方針が二分していた原発巣の切除について、ランダム化比較第3相試験を実施し、原発巣切除を行っても生存期間は延長されず、逆に原発巣切除に伴う有害事象が増えることを確認したと発表した。この研究は、同研究センターの日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)大腸がんグループによるもの。研究成果は、米国学術雑誌「Journal of Clinical Oncology」に掲載されている。
画像はリリースより
大腸がんは、年間15万人以上が罹患する、日本で最も多いがん。そのうち約17%が肝臓や肺への転移や腹膜播種が認められるステージ4大腸がんだ。
ステージ4大腸がんの治療は、原発巣と転移巣が切除可能であればともに切除することが標準治療であり、日本の「大腸癌治療ガイドライン」でも推奨されている。しかし、これらはステージ4の20%程度に過ぎず、約80%は転移巣が切除不能だ。転移巣が切除不能である場合は化学療法を行うが、原発巣による大出血、高度貧血等の症状がある場合は原発巣の切除が行われる。
一方で、原発巣による症状がない場合、米国のガイドラインでは、化学療法を先行する治療が勧められているが、そのエビデンスレベルは低い。そのため、日本のガイドラインでは定まった標準治療はなく、国内外において原発巣による症状がない場合の原発巣切除の対応が二分され、多くは切除することが選択されている。
原発巣の切除は、出血や狭窄の予防になることや、がん幹細胞が多く含まれると考えられる原発巣を早期に切除することで全身のがん細胞の制御に有利に働くことが期待されるが、手術に伴う合併症と、化学療法の開始が遅れる不利益が生じることもある。そのため、原発巣による症状がない場合の原発巣切除の意義を明らかにする必要があった。
治療の意義を明確にするためには、充分な精度をもった検証的試験が不可欠だ。そこで、JCOG大腸がんグループでは、日本の代表的な大腸がんの専門病院を中心に、米国のガイドラインで標準治療とされる原発巣非切除で化学療法を行う治療に対し、原発巣切除後に化学療法を行う治療(原発巣切除術+術後化学療法)の優越性を検証するランダム化比較第3相試験(JCOG1007/研究代表者:国立がん研究センター中央病院の金光幸秀大腸外科科長)を世界で初めて実施した。
原発巣切除先行治療群、化学療法による有害事象の頻度「高」で「重度」
同試験では、2012年6月~2019年4月に、標準治療である化学療法単独治療を受けた患者82人と、原発巣切除後に化学療法治療を受けた患者78人について、生存期間の比較を行った。
その結果、どちらの治療法を受けた患者も生存期間中央値は約26か月~27か月であり、原発巣切除を化学療法に先行しても生存期間が延長しないことが世界で初めて確認された。
また、原発巣切除先行治療のほうが、化学療法による有害事象の頻度は高くより重度であり、原発巣切除後の合併症死も認められた。一方、化学療法単独治療では、原発巣に起因する腸閉塞症などの症状で姑息的手術が必要となることは限定的だった。
原発巣は非切除・化学療法先行治療が第一選択として推奨か
今回の臨床試験結果により、これまで十分な根拠がないまま広く行われていた化学療法施行前の原発巣切除でなく、原発巣は非切除のまま化学療法を先行する治療が第一選択として推奨される、と研究グループは述べている。
同試験の結果により、日本だけでなく米国のガイドラインでも新たな標準治療に書き換えられ、全世界の研究者や臨床医に重要な情報が提供されるとともに、大腸がん患者にさらに有効な治療が提供されることが期待されるとしている。
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・国立がん研究センター プレスリリース