毛包再生能力を維持したまま毛包幹細胞を生体外で100倍以上増幅する培養方法を確立
理化学研究所は2月10日、毛包再生能力を維持したまま毛包幹細胞を生体外で100倍以上増幅する培養方法を確立し、さらに長期間にわたる周期的な毛包再生に必要な幹細胞集団を明らかにしたと発表した。この研究は、同研究所生命機能科学研究センター器官誘導研究チームの辻孝チームリーダー、武尾真上級研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、科学雑誌「Scientific Reports」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
動物の器官は、胎児期において器官誘導能を持つ上皮性幹細胞と間葉性幹細胞の相互作用により形成され、出生後は体性幹細胞によって維持される。体性幹細胞は器官誘導能を持たないため、病気やケガ、老化によって器官が機能不全に陥っても器官を再生することはできない。
しかし、毛髪を作り出す器官の毛包は、唯一、生涯にわたって周期的な「器官再生」を繰り返す。毛包は、皮脂腺や毛包上皮性幹細胞が存在するバルジ領域を含む不変部と、毛髪を作り出す工場である毛球部を含む可変部に分けられ、可変部はマウスでは約3週間、ヒトでは5~7年周期で退縮と再生を繰り返し(毛周期)、毛髪が生え変わる。この過程において、毛包上皮性幹細胞と毛乳頭細胞(間葉性幹細胞を含む)が相互作用することで毛包器官が再生される。これは、毛包上皮性幹細胞および間葉性幹細胞が出生後も器官誘導能を維持していることを示しており、次世代器官再生医療である毛包再生医療のための細胞ソースとして期待されている。
しかし、長期間の周期的な毛包再生を可能とする細胞集団の実体は長らく不明なままで、その生体外増幅法も確立されていなかった。
長期間の器官誘導能力の維持、CD34/Itg6/Itg5三重陽性細胞が重要
研究グループは、まず、毛包器官誘導能を持つ上皮性幹細胞を生体外で増幅する培養系を確立した。この培養方法を応用することで、ヒト頭髪バルジ由来細胞が1毛包から4,000倍に増幅され、同一期間内に毛乳頭細胞が約100倍に増幅される。このことから、最終的に1毛包から約100毛包相当まで増幅可能となり、毛包再生医療の臨床応用の実現に大きく前進したとしている。
次に、毛包上皮性幹細胞の毛包形成能力を制御するとともに、長期間の毛包器官再生に必要な幹細胞集団を明らかにした。再生毛包において、CD34/Itg6/Itg5三重陽性細胞が、周期的な毛包再生に必要であることが示された。
さらに、同幹細胞集団は、マウスとヒトの天然毛包中においては、毛包幹細胞ニッチであるバルジ領域の上部に細胞外基質の糖タンパク質である「テネイシン」とともに局在しており、テネイシンが毛包器官誘導能を持つ上皮性幹細胞の未分化性維持のニッチを形成している可能性が示された。
今回の研究により、周期的な毛包再生能を維持したまま毛包上皮性幹細胞を増幅できる培養方法の開発に成功するとともに、長期間の器官誘導能力の維持にはCD34/Itg6/Itg5三重陽性細胞が重要であることが明らかとなった。
毛包器官再生医療の実現に期待
同研究成果は、毛包上皮性幹細胞の周期的な毛包再生や分化、運命決定のメカニズムや、上皮性幹細胞間の細胞系譜の理解などの幹細胞生物学研究への貢献が期待される。「なぜほとんど全ての体性幹細胞は器官誘導能を失っているのか」「どうやったら組織幹細胞においても器官誘導能を維持できるのか」といった、発生生物学上の根本的な問いに答える足掛かりになるものと期待されるという。
また、今回の研究により確立された培養方法を応用することで、少数の毛包から大量の再生毛包を人為的に製造できることから、世界初の器官再生医療である毛包器官再生医療(毛髪再生)の実現に大きく貢献すると期待できる、と研究グループは述べている。
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・理化学研究所 プレスリリース