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加齢に伴う脱毛の原因が「幹細胞分裂」にあることを発見-東京医歯大ほか

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2021年02月16日 AM10:00

毛包の再生と老化を司る幹細胞分裂タイプの存在や、分子基盤は?

東京医科歯科大学は2月12日、加齢に伴う脱毛の原因が幹細胞分裂にあることを突き止めたと発表した。この研究は、同大難治疾患研究所・幹細胞医学分野の松村寛行助教と西村栄美教授(東京大学・医科学研究所兼任)らの研究グループが、横浜市立大学分子細胞生物学分野、フランス国立科学研究センターなどとの共同研究として行ったもの。研究成果は、「Nature aging」のオンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

ヒトの体を構築する多くの組織や臓器は、加齢に伴いその構築や機能が衰え、再生能力も低下し、より小さく硬くなっていく。近年、老化細胞の蓄積が加齢に伴う臓器の機能低下の原因として注目を集めている。一方で、組織幹細胞システムを形成する多くの組織や臓器は、加齢に伴い幹細胞の枯渇によって本来供給される機能細胞が減少して機能低下を引き起こすことも知られるようになった。毛を生やす小型の器官である毛包はその典型例だ。幹細胞はその自己複製と分化細胞の供給によって組織を維持しており、その分裂軸の違いに基づく対称分裂(均等分裂)と非対称分裂(不均等分裂)を行うが、バランスが加齢によって崩れることがいくつかの系で報告されている。しかし、幹細胞の自己複製の実態はいまだ明らかではなく、器官の再生または老化を担う幹細胞の分裂タイプの存在や組織の再生や老化との関連については明らかにされていなかった。

研究グループはこれまでに、ヘミデスモソーム構成因子であるXVII型コラーゲンを発現する毛包幹細胞が、毛包の再生に必須であることを明らかにしていた。また、加齢に伴うDNA損傷や放射線などの環境ストレスに応じて、XVII型コラーゲンの分解を引き起こすことで、毛包幹細胞が自己複製を行ったり、毛を生やす細胞を産生したりする代わりに、表皮角化細胞を生み出しフケ・垢として脱落させることにより、段階的に毛包のミニチュア化が進み、これによって薄毛や脱毛が引き起こされることを明らかにしてきた。しかし、器官の再生と老化を司る幹細胞分裂タイプの存在や、その分子基盤については全くわかっていなかった。

加齢<毛包幹細胞がストレス応答性の非対称分裂<毛包の矮小化、

研究グループはまず、若いマウスにおいて毛包幹細胞の系譜解析と分裂軸の解析を組み合わせ、その分裂期とその後の幹細胞動態を解析した。若い野生型マウスにおいては、毛包幹細胞が再生型の幹細胞分裂(典型的な対称分裂と幹細胞ニッチを倍加するための非対称分裂)を引き起こすことによって、毛包幹細胞とそのニッチが倍加していることが示された。一方、加齢したマウスで、同様の解析を行ったところ、基底膜に対し垂直に分裂する際に表皮角化細胞へと分化した細胞を生み出す特殊な非対称分裂(縦分裂)を引き起こしていることがわかった。また、放射線などのゲノムストレスなどの存在下でも同様の幹細胞分裂が観察された。加齢やストレスの存在下においても同様の幹細胞運命の転換が引き起こされることから、これを「ストレス応答性の非対称分裂」と名付けた。

このタイプの非対称分裂は、ヘミデスモソーム構成因子のXVII型コラーゲンやインテグリンα6を欠損するマウスに加え、上皮の極性形成に関わる分子としても知られるaPKCλを安定的に発現化させ、再生型の幹細胞分裂を行うのに対し、加齢によるその発現減少は、ストレス応答性の非対称分裂を引き起こし、毛包幹細胞の枯渇を反復性に引き起こすため、基底膜との接着がさらに脆弱となり、幹細胞の枯渇が進むことがわかった。また、ヒト毛包においても、マウスと同様にミニチュア化した毛包においてXVII型コラーゲンおよびaPKCλの発現低下が観察されたことから、ヒト毛包においても同様の機構が存在することを示唆している。これらの結果から、XVII型コラーゲンやaPKCλを介した幹細胞分裂プログラムが、組織の再生と老化を制御していることが明らかになった。

上皮組織の老化機序の理解や抗老化戦略の開発への応用に期待

高齢化社会において老化のメカニズムの解明とその応用による健康長寿の実現化が期待されている。今回、上皮系の小器官である毛包において再生と老化を担う幹細胞分裂プログラムの存在が明らかとなり、その分子基盤の一端が解明された。

「本研究成果は、幹細胞分裂プログラムによる器官の再生と老化の仕組みについて新しい視点を与えると同時に、脱毛症の治療法の開発やその他の上皮系臓器の加齢関連疾患の治療へと繋がることが期待できるものと考えられる」と、研究グループは述べている。

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