医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 高分子量ヒアルロン酸の吸入が重度COPDの治療に効果的な可能性-NIHほか

高分子量ヒアルロン酸の吸入が重度COPDの治療に効果的な可能性-NIHほか

読了時間:約 2分31秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2021年02月12日 PM04:00

高分子量ヒアルロン酸の吸入による効果を臨床試験で検証

米国立衛生研究所()は2月1日、重度の慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の肺機能が、高分子ヒアルロン酸の吸入により改善されることが臨床試験の結果からわかったと発表した。これは、米国立環境衛生科学研究所(NIEHS)のStavros Garantziotis医師、イタリアのBio-Medico University and Teaching Hospital のRaffaele Incalzi医師、米国アラバマ大学バーミンガム校のSteven Rowe医師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Respiratory Research」にオンライン掲載されている。


※イメージ

COPDは、2030年までに世界で3番目に多い死因となることが予想されており、全世界的に問題となっている。そのうち重度なCOPDの場合、長期にわたり高レベルな医療ケアが必要とされるうえ、気管支拡張薬や副腎皮質ステロイド、抗菌薬など治療法が限定的であることが課題となっている。

ヒアルロン酸は、生体内で細胞の隙間を埋める役割をもつ糖であり、肺を含む細胞外マトリックスにも豊富に含まれる。非常に親水性が高く、化粧品の皮膚保湿剤などに使用されているほか、医療用としてのヒアルロン酸は集中治療中のCOPD患者にも使われ、呼吸補助を必要とする時間を短縮し、入院期間の短縮、および入院費の削減に貢献している。

Garantziotis医師はこれまでに、肺が汚染にさらされると、肺のヒアルロン酸は低分子量の断片に分解されることを示した。さらに、それらが肺組織を刺激し、免疫系を活性化させ、気道の狭窄や炎症を引き起こすことを明らかにしている。今回、研究グループは、高分子量ヒアルロン酸の吸入が、低分子量の断片による炎症の軽減に寄与するのではないかと考えた。そこで、気道の保湿用としてヒアルロン酸がすでに承認されているイタリアで、高分子量ヒアルロン酸の吸入が重症のCOPD患者の肺機能を改善できるかどうかを検討する、プラセボ対照無作為化二重盲検試験を実施した。

治療を受けたグループのNIPPV使用が短期間に

試験は2016年~2019年にイタリアのCampus Bio-Medico University and Teaching Hospitalに入院した、非侵襲的陽圧換気療法()を必要とする重度のCOPD患者を対象に行われた。インフォームドコンセントの後に2グループに分け、ヒアルロン酸による治療を受けるグループ(以下、治療グループ)にはInstitute Biochimique SA社の「Yabro」(0.3%ヒアルロン酸ナトリウム塩を含む生理食塩水5ml)を人工呼吸器によって投与した。主要評価項目は、NIPPVによる治療が必要なくなるまでの期間とした。最終的な対象者は41人(治療グループ20人、プラセボ21人)だった。

その結果、治療グループでは、プラセボに比べてNIPPVの使用期間が有意に短かったことがわかった(治療グループ5.2±0.4日、プラセボ6.4±0.5日)。また、治療グループの急性期の炎症マーカーを解析したところ、治療グループの方がより改善を示す傾向がみられた。具体的には、治療グループのCRP(自然対数変換値)は-0.072から-0.651(p=0.0008)に低下、プラセボのCRPは-0.142から-0.615(p=0.02)まで低下していた。また、実際の患者の気道の細胞を培養して調べたところ、治療後に粘液がより流れやすくなっていることがわかった。

ヒアルロン酸は全身薬を妨害せず、局所的に作用

今回の研究成果は、体内ですでに見つかっている分子を使用する点が新しい概念であるといえる。加えて、ヒアルロン酸の吸入は、安全で投与が容易であり、気管支樹でのみ局所的に作用するため、全身薬を阻害することはないと考えられるという。研究グループは、「今後COPDに対するヒアルロン酸の使用について追加の研究を行うことで、COPDの進行や罹患率、死亡率、医療費の削減に貢献できるだろう」と述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 血液中アンフィレグリンが心房細動の機能的バイオマーカーとなる可能性-神戸大ほか
  • 腎臓の過剰ろ過、加齢を考慮して判断する新たな数式を定義-大阪公立大
  • 超希少難治性疾患のHGPS、核膜修復の遅延をロナファルニブが改善-科学大ほか
  • 運動後の起立性低血圧、水分摂取で軽減の可能性-杏林大
  • ALS、オリゴデンドロサイト異常がマウスの運動障害を惹起-名大