腎嚢胞抑制作用のあるメトホルミン、肝嚢胞への効果は?
東北大学は2月9日、糖尿病の治療薬であるメトホルミンが、多発性肝嚢胞モデルラットの肝病変に対して、抑制効果があることを確認したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科内部障害学分野の佐藤陽一大学院生、上月正博教授、東北医科薬科大学リハビリテーション学の伊藤修教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「American Journal of Physiology Gastrointestinal and Liver Physiology」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
多発性肝嚢胞は、肝臓に嚢胞と呼ばれる空間ができ、それが徐々に拡大する遺伝性肝疾患。拡大した嚢胞は腹部の臓器を圧迫し、呼吸が困難に感じたり腹部が張る感じがしたりするなどの症状が出る。さらに嚢胞が大きくなると体を前に倒すことが困難になるので、日常生活においても動作が制限されるようになる。現在までに保険適用されている薬剤はなく、肝嚢胞に対する治療法の確立が課題となっている。
近年、多発性嚢胞腎患者に対して2型糖尿病の治療薬であるメトホルミンを投与すると、腎嚢胞が抑制されたことが報告された。多発性嚢胞腎患者の多くで肝嚢胞が生じており、嚢胞形成のメカニズムも似ていることから、メトホルミンが肝嚢胞に対しても抑制効果がある可能性がある。しかしながら、これまでにメトホルミンの多発性肝嚢胞もしくは多発性嚢胞腎の肝病変に対する効果を検証した報告はなく、その効果は不明だった。
12週間メトホルミン投与で、肝嚢胞や肝線維化が改善
今回、研究グループは、多発性肝嚢胞モデルラットに対してメトホルミンを使用すると、肝嚢胞や肝線維化を抑制することを明らかにした。メトホルミンを飲水に混ぜて、12週間投与したラットと通常水のラットを比較した。その結果、肝嚢胞や肝線維化の程度がメトホルミンの投与により改善。さらにメトホルミンは、嚢胞を取り囲む細胞(胆管上皮細胞)の増殖を抑制し、嚢胞の拡大を抑える効果があることが確認された。
以前、同グループは多発性肝嚢胞モデルラットに対する運動療法が、肝嚢胞を抑制したことを報告しており、運動療法はメトホルミンと同様、胆管上皮細胞の細胞増殖を抑制した。この機序として、肝臓内のAMPKというタンパク質の活性化が関与している可能性があった。メトホルミンも肝臓内のAMPKを活性化したことから、今回の結果は、運動療法の肝嚢胞抑制効果の機序を裏付ける可能性があるという。
今回の研究は、多発性肝嚢胞モデルラットに対するメトホルミンが、肝嚢胞や肝線維化を抑制することを初めて実証した重要な報告。この結果について研究グループは、「有効な薬物療法が確立していない多発性肝嚢胞において、メトホルミンが効果的であると期待される」と、述べている。
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