FGF5は、毛周期の成長期から退行期へのスイッチ
千葉工業大学は2月5日、線維芽細胞増殖因子「FGF5」のはたらきを阻害する人工RNA(RNAアプタマー)を開発したと発表した。この研究は、同大先進工学部 生命科学科の坂本泰一教授と、株式会社アドバンジェンの山本昌邦博士、北海道医療大学の堀内正隆准教授、横浜国立大学の田中陽一郎博士らとの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
毛は生えて抜け落ちることを繰り返しており、この周期を毛周期と呼ぶ。この毛周期において、線維芽細胞増殖因子の一つである「FGF5」が成長期から退行期へのスイッチとなっていることが明らかになっている。毛周期の成長期の終わりに、外毛根鞘とよばれる部位でFGF5が生産され、これが毛乳頭のFGF受容体に結合することで脱毛が起こると言われている。つまり、FGF5が毛乳頭へ働きかけ、脱毛シグナルを出させているのだ。
FGF5特異的に結合するRNAアプタマーを開発、育毛剤として非常に高いポテンシャル
アドバンジェンは、このFGF5に注目し、FGF5のはたらきを抑える育毛剤の開発を行ってきた。一方、坂本泰一教授らのグループは、10年以上にわたってアプタマー医薬品の開発のための基礎研究を行ってきており、アプタマー医薬品が作用するメカニズムを明らかにしてきた。現在、アプタマー医薬品は、次世代型分子標的薬として注目されており、世界中でさまざまな疾患に対して前臨床試験、臨床試験が行われている。そこで研究グループは今回、このFGF5の働きを抑えるRNAアプタマーを開発し、効果の高い育毛剤を開発することを試みた。
SELEX法により、7種類のRNAアプタマーが得られたが、それらはFGF5によって誘導される細胞増殖を効果的に抑制することが明らかとなった。RNAアプタマーとFGF5の結合は非常に強く、RNAアプタマーが結合することにより、FGF5はFGF受容体に結合できなくなることがわかった。
また、RNAアプタマーと他のFGFタンパク質との相互作用を調べたところ、FGF5以外のFGFには結合しなかった。これは、このRNAアプタマーがFGF5に対して特異的に結合することを示しており、人体に投与した場合に、他のタンパク質に作用しない、つまり、副作用が少なくなることを示している。このアプタマーは、育毛剤として非常に高いポテンシャルを持っていることが明らかとなった。
FGF5によって起こる疾患の治療薬としても期待
今回の研究成果により、ヒトFGF5に特異的に結合するRNAアプタマーが開発された。FGF5は、一部のがん細胞においてがん化を促進することが報告されていることから、FGF5によって起こる疾患の治療薬としての可能性も持っているという。実際に、FGF5と同様のはたらきを持つFGF2を標的としたRNAアプタマーは、加齢黄斑変性症などの治療薬として臨床試験が行われている。
研究グループは「生体内でのRNAアプタマーの効果を確認できれば、新たな育毛剤や治療薬となることが期待される」と、述べている。
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