肺など遠隔転移がある骨肉腫の5年生存率は20~30%
慶應義塾大学は2月5日、タンパク質リン酸化酵素のTNIK(TRAF2 and NCK-interacting protein kinase)が骨肉腫で高頻度に活性化しており、TNIKの阻害薬が骨肉腫細胞の増殖を抑制するのみならず腫瘍細胞を脂肪細胞に変化させることを、マウスを用いた動物実験で明らかにしたと発表した。これは、同大医学部整形外科学教室の弘實透助教と国立がん研究センター研究所細胞情報学分野・連携研究室の増田万里主任研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、「JCI Insight」の電子版に掲載されている。
画像はリリースより
手術と化学療法を組み合わせることで、骨肉腫の治療成績は近年大きく改善してきた。しかし、肺などの遠隔臓器に転移のある骨肉腫の場合、治療は今日でも困難で、5年生存率は20~30%にとどまっている。また、骨肉腫は頻度が低い希少がんで、治療薬の開発が進んでいない。特定の分子を標的とした分子標的治療薬に有効なものはなく、多くの悪性腫瘍で効果が認められている新しい治療薬、免疫チェックポイント阻害薬も効果がないことが明らかになっている。
NCB-0846投与でマウスの骨肉腫が脂肪組織に変化
今回、研究グループは骨肉腫細胞のTNIK遺伝子の発現を抑制すると、脂肪細胞特有の遺伝子にスイッチが入り、骨肉腫の細胞が脂肪細胞様に変化することを実験で明らかにした。また、国立がん研究センターとカルナバイオサイエンス株式会社が共同研究で開発した低分子化合物「NCB-0846」というTNIKを阻害する薬剤でも、同じように遺伝子や代謝経路の切り替えが起こり、マウスに移植した骨肉腫を脂肪組織に変えてしまうことも明らかにした。
化学療法が無効だった患者で化学療法後に強くTNIKが発現
加えて、化学療法が効かなかった患者で化学療法後に強くTNIKが発現していることを今回見出している。TNIKは化学療法に抵抗性を示す「がん幹細胞」を誘導することが知られており、TNIKの発現が、化学療法が効かなかった原因となっていた可能性を示している。
「薬剤で骨肉腫細胞を安全な脂肪細胞に体内で変換できることを示した初めての研究だ。TNIK阻害薬を治療薬として実用化できれば、今まで治療効果がなかった多くの患者を助けることができ、骨肉腫の臨床に新たな局面がもたらされることが期待される」と、研究グループは述べている。
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