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ジャパンラグビートップリーグ男性選手、メンタルヘルス不調の実態調査-NCNPほか

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2021年02月05日 AM11:30

選手の心理的ストレスなど、リスク要因とともに調査

)は2月4日、ジャパンラグビートップリーグの男性ラグビー選手を対象に調査を実施し、メンタルヘルス不調の実態を報告したと発表した。この研究は、NCNP精神保健研究所地域・司法精神医療研究部、認知行動療法センター、日本ラグビーフットボール選手会の研究グループによるもの。研究成果は、「International Journal of Environmental Research and Public Health」に掲載されている。


画像はリリースより

近年、スポーツ界では、メンタル(心の状態)が注目されている。その多くはメンタルタフネスやストレングスなど「より強くなるためにどうしたらいいのか?」という文脈で使われており、メンタルヘルスについて、日本ではあまり注目されていない。一方で、メンタルタフネスやストレングスを鍛えるためには、良好なメンタルヘルス(心の健康)が欠かせない。

国際的には、アスリートのメンタルヘルスケアの開発が進められている。国際オリンピック委員会などから、この数年で、少なくとも7件の声明が発表された。これらの声明では、「アスリートのメンタルヘルス不調の経験は珍しくない」「競技パフォーマンスにも影響する」「身体の不調と同様に早めの気づきと適切な対処が大切である」「回復可能である」「アスリートのためのメンタルヘルス支援策の整備が急務である」ことが述べられている。これらの声明は、数々の調査研究知見を基にしているが、それらの研究知見は、欧米諸国、オーストラリアからの発表がほとんどで、日本からの研究は含まれていまない。

日本におけるアスリートのメンタルヘルスケアは、個人やチームレベルの実践は存在する可能性があるものの、体系的な整備には至っていない状況だ。そこで、研究グループは、日本のアスリートのメンタルヘルス実態を把握するため、ジャパンラグビートップリーグ選手の心理的ストレス、うつ・不安障害が疑われる状態や希死念慮を抱える選手の割合、それらのリスク要因を調べた。

回答者251人中32.3%が「一か月間に心理的ストレスを経験」

今回の研究では、2019年12月〜2020年1月、日本ラグビーフットボール選手会から各選手に、ウェブアンケート調査が配布され、調査説明に同意した選手から回答を得た。調査項目には、・不安障害が疑われる状態(K6)および希死念慮の評価(BDSAのうち1項目)が含まれた。基本属性、生活上の出来事や体調の変化なども含まれた。同調査を分析するにあたっては、国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター倫理委員会の承認を受けて実施した。

調査の結果、251人から回答があり、このうち、32.3%(81人)がこの一か月間に心理的ストレス、4.8%(12人)はうつ・不安障害の疑い、5.2%(13人)は、重度(社会機能に支障をきたす程度)のうつ・不安障害の疑いに相当する状態を経験していた。

また、7.6%(19人)は、過去2週間に希死念慮(自分の人生を終わらせることを考えること)を経験していた。

何らかのメンタルヘルス不調(心理的ストレス〜重度のうつ・不安障害の疑い)を抱える選手では、不調のない選手に比べて、「疲労、食欲の変化、体重の変化、睡眠の問題、お酒関係のトラブル、経済的な変化、試合に出られなかった、競技力の低下、引退後の生活について考えた」といった経験や体調の変化を高い割合で経験していたという。

日本のラグビー選手、海外アスリートと同様にメンタルヘルス上の課題を経験の可能性

今回の調査に参加した選手では、2.4人に1人の割合で、何らかのメンタルヘルス不調を経験していた。10人に1人は、うつ・不安障害の疑いあるいは重度のうつ・不安障害が疑われる状態だった。希死念慮は、13人に1人に認められたという。

この結果は、海外で示されてきた知見と似通っており、日本のラグビー選手において、海外アスリートや一般人と同様にメンタルヘルス上の課題を経験している可能性があることを示したとしている。

具体的な不調要因の検討、経時的な変化を捉える複数時点での調査が必要

今回の調査は、アスリートと研究者の共同プロジェクトから生まれた取り組み。同プロジェクトは、日本のスポーツ界において、メンタルフィットネスへの意識を高め、アスリートへの有効なメンタルヘルス支援策を開発することを目的としている。

今回の研究では、科学的根拠に基づく支援策の開発のため、最初のステップである実態把握を行った。ただし、日本のアスリート全体の傾向をより正確に知るには、他競技のアスリートや女性アスリートでも同様の調査実施が必要だ。また、より具体的な不調要因の検討には、シーズン中を含めて経時的な変化を捉える複数時点での調査を行う必要があるとしている。

今回の研究に関連して、アスリートがメンタルフィットネスに関するメッセージを発信するウェブサイト「よわいはつよいプロジェクト」を立ち上げた。アスリートが、心の状態を認識し、受け入れ、困難への柔軟な対応力を高めるための情報を発信するという。また、つらいことを一人で耐えるという対処ではなく解決すべき課題として信頼できる人と共有し支え合い、共に問題を解決して前に進むというメッセージの発信を行う「場」を提供している。

一方、現在のプロジェクトチームは、研究者、臨床家、アスリートの小規模のメンバーで構成されるため、その活動規模に限界があることを認識しているという。国内アスリートのメンタルフィットネスに関する研究規模の拡大と同時に、持続可能な組織体制の構築も必要だとし、そのためには、今後、民間企業等との協働も含めて、領域全体で発展しなければならないと考える、と研究グループは述べている。

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