GABAを放出する神経細胞が、適切な時間帯に動物の覚醒を引き起こすメカニズムは?
金沢大学は2月3日、体内時計が動物の行動する時間帯を設定する制御メカニズムの一端を明らかにしたと発表した。この研究は、同大医薬保健研究域医学系の前島隆司准教授、三枝理博教授らと、明治大学、東邦大学、自然科学研究機構の共同研究グループによるもの。研究成果は、「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
ヒトを含む哺乳動物の行動や睡眠・覚醒、さまざまな身体機能(体温、ホルモン分泌、自律神経機能など)は、体内時計により約24時間周期のリズム(サーカディアンリズム、概日リズム)に保たれている。
脳内の視床下部には体内時計として機能する視交叉上核が存在しており、時刻情報を全身に配信している。視交叉上核には神経伝達物質GABAを放出する約2万個の神経細胞が存在しているが、均一な細胞集団ではなく、性質の異なる複数のタイプの神経細胞から成り立っている。個々の神経細胞には、時計遺伝子を中心とした、リズムを生み出す分子機構(分子時計)が備わっているが、それらの神経細胞がどのようにコミュニケーションを取り合い、適切な時間帯に動物の行動や覚醒を引き起こすように時間情報を作り出しているのか、そのメカニズムについては不明な点が多く残されていた。
GABA放出されないマウスは活動期が5時間以上長く、二峰性の活動ピーク
研究グループはまず、バソプレシン産生神経細胞からのGABA放出が、昼間に高まるというサーカディアンリズムがあることを見出した。
次に、バソプレシン産生神経細胞からのみGABAが放出されない性質を持つ遺伝子改変マウスを作成して解析を行った。そのマウスでは、時計遺伝子によって駆動される視交叉上核の分子時計はほぼ正常に時を刻んでいたが、ケージ内を動き回る行動は、分子時計を基準にとると、行動の開始時刻は早まり、終了時刻は遅れ、結果として行動の始まりから終わりまでの間隔(活動期)が正常マウスに比べ、5時間以上長くなっていた。また、視交叉上核の神経細胞の電気的な活動(神経発火活動)は、正常マウスでは昼に高く夜に低い単峰性のリズムを示すが、この遺伝子改変マウスでは、昼に加えて夜にも活動のピークを生じるという二峰性のリズムを示し、マウスの行動はその神経活動が低下するリズムの谷間に起きていることがわかったという。
バソプレシン産生神経細胞から放出のGABAが適切な時間帯の行動に重要
今回の研究成果により、視交叉上核内に存在する神経細胞のうち、「バソプレシン」を産生する神経細胞から放出されるGABAの働きにより、視交叉上核内の神経細胞の活動が時計遺伝子リズムの適切な時間枠に限定され、それに伴い動物の行動が適切な時間帯に起きることが、世界で初めて明らかにされた。これにより、「体内時計上に正確なタイマー作動時間帯を設定するメカニズム」の一端が解明された。
体内時計の乱れは、睡眠障害はもとより、さまざまな精神疾患、がんやメタボリックシンドロームの発症を高めると報告されている。「今回、視交叉上核内でのGABAを介した神経細胞間コミュニケーションの役割が見出された。これは体内時計機構において、細胞内の時計遺伝子メカニズムと協調して機能する、新たな制御階層の発見とみなされる。今後、この機構を踏まえた体内時計の医学的および薬学的介入方法の開発につながると期待される」と、研究グループは述べている。
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