医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 口腔内微生物の多様度は歯周病の重症度と相関-ToMMo

口腔内微生物の多様度は歯周病の重症度と相関-ToMMo

読了時間:約 3分11秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2021年02月02日 AM10:45

口腔マイクロバイオームにおける微生物のバランスは、口腔、全身の健康と密接に関係

東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)は1月29日、唾液と歯垢では「マイクロバイオーム間のコミュニティ構造」(成り立ち)の違いがあること、また、微生物の多様度が歯周病の重症度と相関していることを明らかにしたと発表した。これは、同機構の齋藤さかえ氏、青木裕一氏、玉原亨氏、後藤まき氏、松井裕之氏、川嶋順子氏、檀上稲穂氏、寳澤篤氏、栗山進一氏、鈴木洋一氏、布施昇男氏、呉繁夫氏、山下理宇氏、田邉修氏、峯岸直子氏、木下賢吾氏、坪井明人氏、清水律子氏、山本雅之機構長の研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers Cellularand Infection Microbiology」のオンライン版で公開されている。

人体に共生する微生物は、宿主であるヒトの生存に不可欠な機能を提供しており、その働きやメカニズムは古くから注目され研究されてきた。近年、大量のDNA配列情報を短時間に解析できる次世代シークエンス技術の登場によって、微生物集団のゲノムを網羅的に解析することが可能になり、微生物がヒトの健康にどのような影響を与えているのかが分子レベルで明らかになりつつある。

2012年には米国国立衛生研究所(NIH)が主導した、ヒトマイクロバイオームプロジェクト(HMP)により約200人の全身のマイクロバイオームの構成が明らかとなり、疾患を引き起こすことが知られている微生物が、健康なヒトの体にも保持されていることなどが報告された。中でも口腔内に生息する細菌は、それらの個々のDNA配列に基づく解析から700種類以上が同定されており、歯の表面、、舌、頬粘膜など環境の異なる部位にそれぞれ特徴的な集団を形成する。口腔マイクロバイオームにおける微生物のバランスは、口腔そして全身の健康と密接に関係している。


画像はリリースより

唾液および歯垢1,289人分のマイクロバイオーム解析を実施

ToMMoはヒトマイクロバイオームからヒトの健康と疾患を理解することを目的に、ToMMoが宮城県内の地域支援センターにおける詳細調査で実施した歯科検診と合わせて、歯科医師による3種類の口腔検体(唾液・歯垢・舌苔)の採取を行っている。2013年10月から2016年5月までの期間に、口腔検体の採取に同意した参加者は2万5,014人(地域住民コホート1万7,263人、三世代コホート7,751人)であり、約15万本の試料がバイオバンクに保存されている。これらの試料には歯科関連調査のデータが付随しており、調査の内容はすでに成果として報告されており、口腔内細菌のゲノム解析手法を詳細に検討した論文も発表している。

今回は、地域支援仙台センターで歯科医師が検診を行った参加者のうち、45~69歳で20本以上の歯を有する1,289人(男性519人、女性770人)の唾液および歯垢マイクロバイオームを比較した。唾液と歯垢(右側第一大臼歯)から採取・抽出したDNAにおいて、微生物ゲノム由来の16SリボソームRNA遺伝子の可変領域(V4領域)をPCR増幅して、そのDNA塩基配列を解析した。

歯垢に存在する微生物の間には唾液に比べて強い相関関係

その結果、唾液で232種類、歯垢で259種類の特異的な配列が見つかり、16SリボソームRNA遺伝子データベース(Greengenes)検索によって、それぞれに特徴的な配列をもつ微生物種を同定した。さらに、歯科健診情報との比較解析を行い、口腔内に含まれる微生物の多様度が深さ4mm以上の歯周ポケットをもつ歯の割合や最も深い歯周ポケットの深さと相関していること、歯周病のある人の唾液・歯垢でともに微生物の種類が増加することを明らかにした。

また、口腔マイクロバイオームの生態学的特徴を調べるために「共起ネットワーク解析」を行い、歯垢に存在する微生物の間には唾液に比べて強い相関関係があることを明らかにした。これは、歯の表面では唾液と比べて微生物が密に集まって生息しており、相互に作用しながらバイオフィルムを形成し、歯周病菌のような病原性の高い細菌が活動しやすい環境を生み出していることを反映した結果であると考えられるという。

jMorpのヒトマイクロバイオーム用ページで詳細な情報を公開

ToMMoは引き続き口腔マイクロバイオームの全身疾患への関与を明らかにするため、慢性閉塞性肺疾患や代謝性疾患、糖尿病などの疾患をもつ集団の唾液・歯垢、舌苔の微生物ゲノム解析を推進する。それと並行して、微生物集団の全ゲノムシークエンス()の解析パイプラインを確立し、マイクロバイオームの機能の理解に向けて微生物の遺伝子に注目した解析を進めることが可能になる。「今後、宿主であるヒトのマルチオミックスデータとの統合解析によって、ヒトと微生物との相互作用が明らかになり、マイクロバイオームを標的とした疾患の新しい予防法や治療法の発見に貢献するとことが期待される」と、研究グループは述べている。

なお、今回の口腔内の微生物ゲノム解析により明らかになった日本人集団の口腔マイクロバイオームの詳細な情報は、jMorpのヒトマイクロバイオーム用ウェブウェブページで公開されている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 「働きすぎの医師」を精神運動覚醒テストにより評価する新手法を確立-順大ほか
  • 自己免疫疾患の発症、病原性CD4 T細胞に発現のマイクロRNAが関与-NIBIOHNほか
  • 重症薬疹のTEN、空間プロテオミクス解析でJAK阻害剤が有効と判明-新潟大ほか
  • トリプルネガティブ乳がん、新規治療標的分子ZCCHC24を同定-科学大ほか
  • トイレは「ふた閉め洗浄」でもエアロゾルは漏れる、その飛距離が判明-産総研ほか