エラスターゼが肺炎患者の免疫能に及ぼす影響は?
新潟大学は1月29日、細菌性肺炎において感染者の免疫能が低下するメカニズムを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科微生物感染症学分野の土門久哲准教授と寺尾豊教授らを中心とする研究グループによるもの。研究成果は、英国科学誌「Scientific Reports」にオンライン公開されている。
画像はリリースより
肺炎および誤嚥性肺炎は、日本における死因のそれぞれ5位と6位を占め、合計すると年間約14万人がこれらの疾患で亡くなっているとされている(2019年)。肺炎による死亡率は高齢者ほど高く、死亡者の95%を65歳以上が占める。超高齢社会を迎えた今日の日本において、肺炎を予防・治療することは重要な課題だ。
主な肺炎の原因菌である肺炎球菌に感染すると、免疫細胞である好中球が肺に大量に集まり、菌を取り込んで分解処理する。一方、肺炎球菌は毒素を放出することで、好中球の細胞膜を融解し、酵素エラスターゼを漏れ出させる。通常、エラスターゼは、細菌など異物の分解・消化に関与する生体防御因子だが、同酵素が過剰に分泌されると、肺組織さえも傷害されてしまうことが明らかになっている。一方で、エラスターゼが肺炎患者の免疫能に及ぼす影響は明らかになっていない。
MHCクラスII分子が肺胞中に流れ出す現象、エラスターゼ阻害剤での抑制をマウスで確認
免疫細胞の1つであるマクロファージは、細菌など異物を取り込んで分解処理した後、分解産物(ペプチド)を分子HLAクラスIIの上に提示する。その結果、別の免疫細胞であるTリンパ球が活性化して免疫応答が生じる。今回の研究では、好中球から漏れ出たエラスターゼが、マクロファージのHLAクラスIIに及ぼす作用について解析した。
解析の結果、エラスターゼはHLAクラスII分子を分解し、マクロファージにおける同分子の発現量を低下させることが判明した。
また、肺炎を誘導したマウスにおいて、分解されたMHCクラスII分子(マウスにおけるHLAクラスII分子の名称)が肺胞中に流れ出すことを明らかにしたという。また、この現象はエラスターゼ阻害剤を投与することで抑制されたとしている。
今後、各ステップに対する阻害薬を探索
肺炎球菌は、好中球の細胞死とエラスターゼの漏出を経て免疫能を抑制し感染拡大する。研究グループは今後、これら各ステップに対する阻害薬を探索し、肺炎の新たな治療法の発見に向けて研究進めていくという。
肺炎に対する年間の国民医療費は3000億円以上と試算されている。肺炎研究により、将来的な医療費の削減はもちろん、患者の症状軽減にも寄与し社会的な貢献を果たすことを目標としている、と研究グループは述べている。
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・新潟大学 研究成果