患者のQOL低下や予後不良に関連する「筋委縮」のメカニズムを解明
東京都健康長寿医療センターは1月28日、肝疾患の合併症で生じる筋萎縮が損傷肝臓由来のTNFαによって引き起こされることを明らかにしたと発表した。これは、同センター・筋老化再生医学研究の黒澤珠希研究生、上住聡芳研究副部長らと、東京大学との共同研究によるもの。研究成果は、「Cell Death & Disease」に掲載されている。
画像はリリースより
肝臓が慢性的に傷害されると、結合組織が増大することにより線維化が生じ、やがて肝硬変をきたす。肝硬変が悪化すると腹水や消化管出血を引き起こすことがあり、最悪の場合、肝不全や肝がんに発展する。
また、最近では肝硬変の合併症として、骨格筋の萎縮が重要視されてきている。筋萎縮が患者のQOL低下や予後不良に関連することが明らかとなり、「肝疾患におけるサルコペニア判定基準」が作成されている。研究グループは今回、肝疾患の合併症としての筋萎縮のメカニズム解明を目指し、研究に取り組んだ。
モデルマウスにTNFα阻害薬投与で、筋量・筋機能の低下、筋の萎縮を顕著に抑制
研究では、肝臓の線維化モデルとしてマウスの胆管結紮(BDL)モデルを用いた。BDLによって肝臓の線維化が確認されると同時に、骨格筋の顕著な萎縮が生じることを見出し、肝疾患の合併症としての筋萎縮を解析する上で、BDLモデルが有用であることがわかった。BDLによる筋萎縮は肝病変の二次的な影響と考えられるが、研究グループは損傷肝臓から筋萎縮誘導因子が産生され、血流を介して骨格筋に作用し萎縮を誘導していると仮説を立てた。
血中に筋萎縮誘導因子が存在することを証明するため、BDL処置マウスから血液を採取し、その血清を分化した筋管細胞に作用させた。その結果、コントロールマウスの血清を作用させた場合と比べ、BDLマウスの血清を作用させた筋管細胞は顕著な萎縮を示し、BDLによって筋萎縮誘導因子が血中に誘導されると考えられた。
血中に存在する筋萎縮誘導因子の正体を明らかにするため、肝臓の線維化により発現上昇することが報告されているマイオスタチン(MSTN)とTNFαに注目した。BDLマウスの血清を筋管細胞に作用させると同時にMSTNおよびTNFαを阻害したところ、MSTN阻害は筋管細胞の萎縮に影響しなかったが、TNFαの阻害は筋管細胞の萎縮を抑制した。TNFαはBDLによって血中で増加することが確認され、その遺伝子発現の増加は骨格筋では認められず、損傷肝臓で認められた。さらに、エタネルセプト(TNFα阻害薬)をBDL処置マウスに投与したところ、肝臓の線維化自体は抑制されなかったが、筋量・筋機能の低下、筋の萎縮が顕著に抑制された。これらの結果から、肝疾患において、損傷肝臓由来のTNFαが血流を介して骨格筋に作用し筋萎縮を誘導すると考えられた。
筋萎縮の背景に「肝臓-骨格筋シグナル軸」を基盤とした多臓器連関があった
今回の研究成果により、肝臓-骨格筋シグナル軸を基盤とした多臓器連関が、肝疾患の合併症で起こる筋萎縮の背景にあることが明らかとなった。筋萎縮は肝機能とは独立して肝疾患患者の予後を悪化させることが明らかとなってきており、筋萎縮の分子メカニズムを明らかにした同研究は、肝疾患の治療に重要な情報を提供する。
「本研究で用いたエタネルセプトは、関節リウマチの治療薬として、すでに承認されヒトに対して用いられていることから、臨床応用へと展開しやすいメリットもある」と、研究グループは述べている。
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・東京都健康長寿医療センター プレスリリース