「変異種」という表現は学術的に誤用
日本感染症学会は1月27日、英国などで出現し、感染が拡大している新型コロナウイルス変異株について、一部報道機関で統一して用いられている「変異種」という表現は学術的に誤用であるため、正しい表記をお願いしたいと報道機関に向け発信した。
なお、QLifeProでは、当該ウイルスの変異株に対して一貫して「変異株」と表記している。
同じ「新型コロナウイルス」のバリエーションは「変異株」
同学会は、正しい表記に統一すべきである理由について、以下のように述べている。
突然変異はすべての生物において、遺伝子の複製過程で一部読み違えや組み換えが発生し、遺伝情報が一部変化する現象。この中で、新しい性質を持った子孫ができることがあり、この子孫のことを変異“株”と呼称する。変異株は、変化した遺伝情報の影響を受けた一部の性質が変化しているが、もともとの生物の種類は変化していない。この場合、同じウイルスの複製バリエーションにすぎないため、ウイルスの名称は変化しない。
しかしながら、極めてまれに近縁の生物種の間で多くの遺伝子の交換(組み換え)が起きると、2つの生物種の特徴を併せ持った新しい生物種が誕生することがあり、その場合には変異“種”と呼称する。この場合、新型のウイルスが誕生することになるので、新しいウイルスの名前が与えられる。
今回英国で出現した変異株は、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質にN501Yという特異的な変異が起こり、宿主細胞への感染力が強くなったという性質の変化があるが、元来もっていた新型コロナウイルスの基本的特性はほとんど引き継がれている。そのため、依然として新型コロナウイルスのままであり、変異“株”と呼称すべきである。
差別や偏見を引き起こさないためにも正しい表記を
誤った知識は、些細なものであってもしばしば誤解を生じ、差別や偏見につながっていくものもある。ましてや科学的専門用語については、たとえ1文字の違いであっても、大きく意味がことなることがあり、より一層の注意が必要だ。
今回の新型コロナウイルス感染症では、これまでにも感染者や医療従事者に対するさまざまな差別が起きており、新型ウイルスが発生したかのような用語を用いることは、今後に新しい差別を引き起こす可能性もある。このような場合には、単なる誤“用”ではなく、誤“報”と同じ意味を持ちかねない。
こうした理由から、同学会は、「国民の科学リテラシーを正しく引き上げるためにも、正しく用語を用いて欲しい」と、訴えている。
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