仙台市の感染者検体を用いてウイルスコピー数と力価を検討
国立感染症研究所は1月26日、仙台市が実施した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染者検体中の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)コピー数とウイルス力価に係る調査結果およびその考察を公表した。この調査は、仙台市衛生研究所の勝見正道氏、山田香織氏、松原弘明氏、成田美奈子氏、川村健太郎氏、田村志帆氏、千田恭子氏、大森恵梨子氏、大下美穂氏、村上未歩氏、石田ひろみ氏、狩野真由子氏、相原篤志氏によるもので、厚生労働行政推進調査事業費補助金(厚生労働科学特別研究事業)の助成により実施された。
画像はリリースより
仙台市における最初のSARS-CoV-2感染者は2020年2月29日に確認され、それ以降9月30日までに261名の新規患者が確認された。今回、SARS-CoV-2の遺伝子が検出された検体について、ウイルス分離の実施、およびウイルスコピー数との相関性の検討が行われた。
検体からのSARS-CoV-2遺伝子検出およびコピー数の算出は、病原体検出マニュアル2019-nCoV(国立感染症研究所)に記載された「TaqManプローブを用いたリアルタイムone-step RT-PCR法による2019-nCoVの検出」に従ってN2セットで行われた。ウイルス分離に用いられたのは、SARS-CoV-2遺伝子が検出された193検体(鼻腔ぬぐい液189検体、唾液4検体)。VeroE6細胞をシートさせた24穴プレートに検体100μLを3穴ずつ接種し、30分以上感作後検体を除去、次いで2%FCS加MEMを0.5mL上層し、1週間細胞変性効果(CPE)が観察された。
陽性者最多は20~30歳、初回ウイルスコピー数最多は60歳以上
COVID-19と診断された人の年齢分布と初回検査時の検体1μL当たりのウイルスコピー数を検討した結果、陽性者は20~30歳が98人と最も多く、次いで30代で、20歳未満での陽性者は少なかった。初回検査時のウイルスコピー数は、60歳以上が平均で70万コピーを超えて最も多く、次いで20代、40代、30代と続き、10歳未満は平均で1万8,647コピーと少なかった。なお、67人は検体採取時には無症状であった。
発症日から検査日までの日数とウイルスコピー数の関係を検討した結果、相関性はみられなかった(R2=0.3905)が、ウイルスコピー数は発症後2日目が最も多く、発症後15日前後で1コピー未満まで減少する傾向がみられた。
ウイルス分離は1万コピー以上の検体で高効率
検体からのSARS-CoV-2の分離について、1万コピー以上のウイルスが認められた95検体中89検体(93.7%)でSARS-CoV-2が分離されたのに対し、1,000コピー未満の49検体では10検体(20.4%)しかウイルス分離はできず、分離できた検体のウイルスコピー数の下限値は81コピーであった。
検体中のウイルスコピー数とウイルス力価に正の相関
SARS-CoV-2が分離できた陽性検体46検体(すべて鼻腔ぬぐい液)について、ウイルス力価を測定した。具体的には、2%FCS加MEMで10~106まで10倍段階希釈系列を作成し、VeroE6細胞をシートさせた96穴プレートに各希釈液50μLを4穴ずつ接種し、1週間CPEを観察した。ウイルス力価の計算はKarBerの式によってTCID50/50μLとして算出した。さらに、各段階希釈液について、リアルタイムPCR法によりウイルスコピー数/検体1μLを測定した。得られたデータをもとに散布図を作成したところ、累乗近似曲線はY=943.86X0.7711となり、相関性が認められた(R2=0.7503)。また、1TCID50は約944コピー/検体1μLであると算出された。
検体中の感染ウイルス数は100~1,000コピーに1個程度/μLと推定
今回の調査の結果、陽性検体のウイルスコピー数は20~30歳と60歳以上で増加し、また、発症後2日目の検体が最も多く、発症日数の経過とともに減少していく傾向がみられた。ウイルス分離は概ね1万コピー以上の検体では高率であったが、コピー数の減少とともに分離率も低下し、分離できた検体中のウイルスコピー数の下限値は81コピー/μLであった。また、検体中のウイルスコピー数とウイルス力価の比較から検体の1TCID50は約944コピー/μLであったことから、検体中の感染粒子数は100~1,000コピーに1個程度/μLと推定された。しかし、この推定からはみ出す検体もみられたことから、ウイルス力価を検討していく場合は、検体の採取時期、採取方法、検体の保管法、輸送用培地使用の有無など、さまざまな要因を考慮していく必要があると考えられた。
COVID-19の流行は続いており、仙台市内においても継続してSARS-CoV-2陽性者が見出されている。SARS-CoV-2の検体中の動態や病原体ゲノム解析は、早期診断、感染拡大防止、予防および治療法の確立にとって重要であり、仙台市衛生研究所は今後も調査を継続していく予定だとしている。