関連を分析した横断研究のみで、便秘の発症を分析した研究はなかった
富山大学は1月19日、富山県内の子ども約1万人を対象とした研究(富山出生コホート研究)から、中学生の便秘発症と生活習慣の関係を分析し、子どもの便秘予防に関する新たな知見を得たことを発表した。この研究は、同大学術研究部医学系疫学健康政策学講座の山田正明助教、関根道和教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「BMC Public Health」に掲載されている。
画像はリリースより
子どもの便秘に関しての研究は、世界的にも非常に少ない。小児期に便秘であった子どもは、成人期以降も便秘が続きやすいこと、成人における重度の便秘は虚血性腸炎(壊疽型)、巨大結腸症といった生命を脅かす疾患にもなることが知られている。また、便秘はありふれた疾患であるため、近年では医療経済的にも大きな問題となっている。
これまでに、野菜や果物などの食物摂取不足、運動不足、心理的ストレスが子どもの便秘と関連することが報告されている。しかし、これらの研究は、すべて横断研究による関連を分析したもので、便秘の発症を分析した研究はなかった。そこで研究グループは県内で行われた大規模調査から、便秘の発症に対して前向きの縦断研究を行い、リスク要因を明らかにした。
小学生時代から朝食を抜くようになった、運動習慣がなくなった生徒で有意に便秘リスク上昇
調査は平成元年度生まれで3歳時に県内に在住した全児童(約1万人)を対象とし、生活習慣や家庭環境と児童の健康への影響を調査した富山出生コホート研究(1989~2005年)。今回の研究では、小学4年生時のデータ(第3回)と中学1年生(第4回)を用いた。第3回の9,378人から分析に必要な質問項目で無回答だった児童とすでに便秘の児童を抜いた7,858人を追跡し、最終的に5,540人(追跡率70.5%)を分析対象とした。
調査の結果、中学1年生までの3年間に全体の4.7%(男子2.7%、女子6.8%)が便秘(排便が3日に1回以下)を発症した。次に、多変量ロジスティック回帰分析から、便秘発症には果物摂取不足、心理的ストレスが多いことに加え、小学生時代から朝食を抜くようになった(OR=1.83)、運動をする習慣がなくなった(OR=1.56)生徒が有意に便秘のリスクを上昇させていたことが明らかになった。
朝食や運動が体内時計を調節、その乱れで腸の動きが悪くなり便秘を発症した可能性
小児便秘の対策として、「規則正しい生活と食習慣」が小児の便秘症診療ガイドラインにおいても推奨されているが、これまでは専門家の意見のみで、この推奨を裏付ける研究はなかった。そのため今回の研究は、子どもが規則正しい生活を続ける重要性を示した世界初の報告となる。
規則正しい生活と食習慣が便秘対策になる理由として、体内時計と臓器の関係が考えられる。脳に体内時計の役割を果たす機能があることは知られているが、近年は全身の臓器や細胞レベルでも時計(時計遺伝:clock gene)が発見されている。それにより、胃腸や肝臓なども自身が持つ時計の影響を受けているようだ。日常生活において、朝の日光で体内時計がリセットされ、朝食摂取の刺激により1日の中で一番強い大腸の蠕動が生じることがわかっている。また、この蠕動は運動によっても活性化される。成人での疫学研究では、睡眠不足や夜勤、交代勤務者や時差の影響を受ける客室乗務員に便秘が多いことが知られている。今回の中学生を対象とした調査では、朝食を欠食し始める、運動習慣がなくなった生徒に便秘が増えることがわかった。朝食や運動が体内時計(生活のリズム)を調節しており、その乱れによって腸の働きが悪化し、便秘を増やしたと考えられるという。
研究グループは、「便秘予防には、十分な食物繊維の摂取や心理的ストレスの軽減のほか、規則正しい生活を送ることが重要だ。コロナ禍で子どもたちのネット・ゲーム利用が増え、生活習慣の乱れや運動時間が減っていることが予想される。便秘を軽視せず、子どもの時期から規則正しい生活習慣を心がけて欲しい」と、述べている。
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・富山大学 プレスリリース