運動後の脂肪燃焼の様子のモニタリングに成功
東北大学は1月25日、紫外ランプを用いた簡易な装置を用いて、呼気中のアセトンガスを精密に測定し、運動後の脂肪燃焼の様子をモニタリングすることに成功したと発表した。この研究は、同大大学院医工学研究科・工学研究科の松浦祐司教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Sensors」に掲載されている。
画像はリリースより
生体でエネルギー源として糖質より脂質が使用されるようになると、脂質代謝の副産物としてアセトンが生成され、血中アセトン濃度が増加する。この血中アセトンは、揮発性のアセトンガスとして呼吸に伴い体外に放出される。そのため、呼気中のアセトンガス濃度をモニタリングすることにより、脂肪燃焼の様子を知ることができ、代謝能力の評価や脂質燃焼に効果的な運動法の開発へとつながると期待される。ただし、脂質代謝で生じるアセトンガスはごくわずかなため、脂肪代謝をモニタリングするためには高い測定精度が必要だ。
これまで、ガスクロマトグラフィーを用いた質量分析装置が主に用いられてきた。しかし、これらの装置は大型かつ高価であるとともに、測定に時間がかかり、リアルタイムでの測定ができないという難点がある。そのため、小型・低コストで、かつリアルタイムでの測定が可能な装置の開発が望まれている。
小型で低コスト、ほぼリアルタイムでのモニタリングが可能
今回、研究グループは、アセトンガスが極端に波長の短い真空紫外光に強力に吸収されることに着目した。中空光ファイバと呼ばれる細い管状の光ファイバの中に呼気を閉じ込め、そこへ真空紫外光を当てて、アセトンガスに光が吸収されて弱くなる度合いを測定。この方法により、一般的な健常者の呼気中アセトン濃度である1ppm(0.0001%)に対して、0.03ppmという極めて高い精度での測定が可能となった。
測定装置を構成する機器は、真空紫外光を発生する重水素ランプ、中空光ファイバ、そして小型分光器の3つというシンプルな構成だ。そのため、小型かつ低コストを実現。また、測定に要する時間は6秒程度。ほぼリアルタイムでのモニタリングが可能だという。
無侵襲の糖尿病診断への応用も期待
同装置を用いて、実際に脂肪燃焼のモニタリング実験を実施。実験では30分の運動を15分の休憩をはさんで3回行った後、休息をとり、その間の呼気中アセトン濃度を測定した。その結果、運動中はほぼ一定であったのに対して、運動後に徐々に増加することがわかった。これは、主に運動後に脂肪燃焼が生じていることを示しているとしている。
また、同装置は、アセトンと同様に脂質代謝の指標となるイソプレンも同時に測定することが可能であり、2つのガスを同時にモニタリングすることで、脂質代謝の詳細なメカニズムの解明に貢献することも期待されるという。
アセトンガスは、インスリン欠乏により糖質を取り込めず、先に脂質を消費してしまう糖尿病患者の呼気中に高い濃度で含まれている。そのため、同研究の手法を無侵襲の糖尿病診断へ応用することも期待される、と研究グループは述べている。
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