どの患者にセンチネルリンパ節生検を行うべきか?
名古屋大学は1月20日、乳房外パジェット病の患者において、術前の末梢血好中球/リンパ球比(NLR)がリンパ節転移の予測因子になりうることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部附属病院皮膚科の江畑葵専攻医、滝奉樹病院助教、森章一郎医員、秋山真志教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of the American Academy of Dermatology」のオンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
乳房外パジェット病は、陰部や脇などにできるがんの一種で高齢者に多く、進行は比較的遅いとされている。早期に発見されれば小さな手術で済み、予後も良い。しかし、初期の段階では病変は赤いのみで盛り上がりがなく平坦であり、一見すると湿疹と見間違うこともあるため長年放置される例も少なくない。病気の発見が遅れて、リンパ節や他の臓器に転移してしまうと、非常に予後が悪いことが知られている。よって、乳房外パジェット病と診断されたときには転移の有無を正確に知ることがとても重要だ。
2020年より、CTなどの画像検査で明らかな転移のない乳房外パジェット病に対して、新たにセンチネルリンパ節生検が保険適用となった。センチネルリンパ節は悪性腫瘍の病巣から流れ出たリンパ液が最初に行き着くリンパ節であり、リンパ節転移が最初に起こる可能性が高い部位。放射線元素や色素の入った注射などいくつかの方法を組み合わせてリンパ液の流れを追い、センチネルリンパ節を同定し、それを摘出して検査することで転移の有無を調べる。画像による検索では見つけられないリンパ節の転移も見つけることができるので非常に有用な方法だ。ただ、センチネルリンパ節生検を行うためには全身麻酔が必要なことが多く、乳房外パジェット病は高齢の患者に多いため体に負担となる。また、初期の乳房外パジェット病ではリンパ節転移はほとんど認められず、そのような患者にセンチネルリンパ節生検を行うことは、不必要に患者の体にメスを入れることになる。これまで、乳房外パジェット病のどの患者に対して、センチネルリンパ節生検を行った方が良いかは判断に悩むところだった。
そこで、今回の研究では、どのような乳病外パジェット病の患者にセンチネルリンパ節生検を行えば良いかを判断するための指標を見つけるため、名古屋大学医学部附属病院の過去の乳房外パジェット病患者のデータを集め、解析した。
術前血液検査でNLR>3がセンチネルリンパ節転移と有意に関係
解析の対象は、2003年3月から2020年3月の間に名大病院でセンチネルリンパ節生検を行った乳房外パジェット病患者137名。診療録を用いてそれぞれの患者背景(年齢、性別、腫瘍の部位)、手術前の血液検査結果(白血球数、好中球/リンパ球比、LDH、フィブリノーゲン、CEA)やセンチネルリンパ節生検の結果などのデータを収集した。
センチネルリンパ節転移陽性(リンパ節転移あり)のグループと陰性(リンパ節転移なし)のグループに分けてそれぞれのデータを単変量解析したところ、好中球/リンパ球比で有意な差が認められた。そこで、ROC曲線を用いて好中球/リンパ球比の適切なカットオフ値を3と定め、137名の患者を好中球/リンパ球比が3以下のグループと3より大きいグループに分けて単変量解析を行ったところ、やはり好中球/リンパ球比が3より大きいグループの方が有意にセンチネルリンパ節転移陽性の患者が多いことがわかった。
次に、今までの報告で乳房外パジェット病の予後と関係があると言われている因子(年齢、性別、発症部位、術前の生検検体での腫瘍の浸潤度)と好中球/リンパ球比が3より大きいことを含めて多変量解析を実施。するとやはり、好中球/リンパ球比が3より大きいことが、他の因子と比較しても有意にセンチネルリンパ節転移陽性と関与していることがわかった。以上より、手術前の採血で好中球/リンパ球比が3より大きい場合はセンチネルリンパ節転移の可能性が高まるため、センチネルリンパ節生検を行うことが望ましいことが判明した。
今回の成果により、ごく一般的な血液検査から得ることができる好中球/リンパ球比が、乳房外パジェット病のどの患者にセンチネルリンパ節生検を行うべきかを判断する一つの指標となり、今後の乳房外パジェット病の治療方針決定に大きく寄与することが期待される。「今後はより多くの患者で、長期の観察データを集めて解析し、末梢血好中球/リンパ球比と無病生存率や無増悪生存率、全生存率、治療反応性との関係を評価したいと考えている」と、研究グループは述べている。
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