サリドマイド催奇性の分子メカニズムを明らかに
愛媛大学は1月20日、サリドマイド催奇性の分子メカニズムを明らかにしたと発表した。この研究は、同大プロテオサイエンスセンターの山中聡士特定研究員、澤崎達也教授、東北大学大学院生命科学研究科の田村宏治教授、名古屋大学大学院生命農学研究科の鈴木孝幸准教授、名古屋工業大学大学院工学研究科の柴田哲男教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「THE EMBO JOURNAL」に掲載されている。
画像はリリースより
サリドマイドは、半世紀以上前に妊婦における睡眠導入剤として世界中で使用された薬剤だが、服用した妊婦から生まれた胎児の四肢に重篤な催奇性を示したことから、世界規模の薬害問題を引き起こした。その後、ハンセン病や多発性骨髄腫に対する薬効が認められ、現在、サリドマイドやサリドマイド誘導体(レナリドミドおよびポマリドミド)は厳格な安全管理のもと、多発性骨髄腫などの血液がんに対する治療薬として年間約1兆円の規模で使用されている。サリドマイドやサリドマイド誘導体(Immunomodulatory drug/IMiD)は、タンパク質分解酵素であるE3ユビキチンリガーゼの構成因子のひとつであるセレブロン(CRBN)へ結合することにより、さまざまなタンパク質の分解を誘導し、その結果、多様な薬理作用および副作用を示すことが明らかとなっている。
これまでに、胎児の四肢発生に重要な役割を果たすタンパク質SALL4(Sal-like protein 4)が、IMiD依存的にCRBNによって分解誘導されることが報告されていた。また、研究グループは先行研究により、サリドマイドが体内で代謝されて生じる水酸化体(5位水酸化サリドマイド)が、サリドマイドよりも効率的にSALL4に作用するメカニズムを構造解析によって明らかにした。
しかし、サリドマイドやサリドマイド誘導体によって引き起こされる催奇性のメカニズムに関しては未解明な点が多く残されており、SALL4以外の原因タンパク質の存在が示唆されていた。
サリドマイド依存的にCRBNと相互作用
今回の研究では、サリドマイド催奇性に関わるタンパク質として新たにPLZF(promyelocytic leukemia zinc finger)を見出し、サリドマイド催奇性の分子メカニズムを明らかにした。コムギ無細胞タンパク質合成系とAlphaScreen法を組み合わせることで、サリドマイド依存的にCRBNと相互作用するタンパク質を検出する方法を構築。コムギ無細胞タンパク質合成系によって構築された1,118種類から成るヒトの転写因子プロテインアレイを対象にした網羅的な探索の結果、サリドマイド依存的にCRBNと相互作用するタンパク質としてPLZFを見出した。
また、培養細胞を用いた解析の結果、PLZFはサリドマイドやサリドマイド誘導体、そして5位水酸化サリドマイドによってCRBN依存的に分解されることが明らかとなった。
SALL4やPLZFへの作用を軽減した新規サリドマイド誘導体開発で重要な位置付けに
次に、サリドマイド感受性の動物種であるニワトリ胚を対象にPLZFの遺伝子ノックダウン実験を実施。その結果、ニワトリ胚の四肢発達においてPLZFは重要な役割を果たすことが示された。
さらに、ニワトリ胚へサリドマイドや5位水酸化サリドマイドの投与によって、ニワトリ胚の肢芽においてPLZFが減少している一方で、SALL4は減少しないことが確認された。最後に、ニワトリ胚へPLZFを過剰発現することによって、サリドマイド投与に伴って引き起こされる繊維芽細胞増殖因子のFgf8やFgf10の発現減少が、回復することが明らかとなった。
今回の発見は、CRBNによるサリドマイド依存的なPLZFの分解がサリドマイド催奇性に直接関与していることを示しており、ヒトやサル、ウサギのようなサリドマイドに対して感受性の高い生物種においては、サリドマイドが体内の代謝酵素により5位水酸化サリドマイドへ代謝されることと、SALL4とPLZFの両方のタンパク質が分解されることによって、重篤な催奇性が引き起こされることを示唆しているという。
新たなサリドマイド誘導体の開発において、催奇性の回避は重要な課題だ。今回、サリドマイド催奇性に関与するタンパク質としてのPLZFの発見は、今後のSALL4およびPLZFへの作用を軽減した新たなサリドマイド誘導体を開発する上で重要な位置付けになることが予想される、と研究グループは述べている。
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・愛媛大学 プレスリリース