遺伝性PDの一部でミトファジーに関連したタンパク質の異常
大阪大学は11月26日、パーキンソン病(PD)において機能不全に陥ったミトコンドリアを処理する新たな機構として、ミトコンドリア放出現象を見出したと発表した。これは、同大大学院医学系研究科のChi Jing Choong(チュン チジン)特任研究員(常勤)、奥野龍禎助教、望月秀樹教授(神経内科学)の研究グループによるもの。研究成果は、「Autophagy」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
PDの症状としては、全身のふるえ(振戦)、動作の遅さ(動作緩慢)、筋肉の硬さが出現し、進行性の運動障害に苦しめられる。これは、脳の中脳黒質という部分の神経細胞が作る、神経伝達物質であるドパミンが脳の中で不足することにより引き起こされる。PDの治療は、ドパミンを補充するなどの対症療法があるものの、発症を予防したり、進行を抑えることができる根本的な治療法はなく、発症機構の解明が望まれている。
また、PDには非遺伝性のPDと遺伝性のPDがあり、非遺伝性PDの黒質ではミトコンドリア障害が認められる一方で、遺伝性PDの一部ではミトコンドリアを分解するミトファジーに関連したタンパク質の異常が報告されており、ミトコンドリアはPDの病態に深く関わっていることが知られている。
ミトコンドリアは、細胞内のエネルギー産生を担うが、それ以外にも酸化ストレスやカルシウム調節、細胞死の制御、糖・脂肪酸・アミノ酸の各種代謝にも関連しており、細胞の恒常性維持にとても重要だ。機能不全に陥ったミトコンドリアは速やかにミトファジーで分解しないと活性酸素などの増加を来し細胞障害の原因となってしまう。Parkinに変異がありミトファジーが起きにくい患者では、機能不全ミトコンドリアが神経細胞内に増えることが予測されるが、分解を受け損ねたミトコンドリアの行方はこれまで不明だった。
ミトコンドリア障害に伴って細胞外へミトコンドリアが放出される
研究グループはまず、培養神経細胞を用いて、ミトコンドリアを蛍光で標識し、ライブイメージングを行った。その結果、細胞からミトコンドリアが放出されていることを見出した。驚くべきことに放出されたミトコンドリアの多くは膜に覆われずミトコンドリアそのものが放出されていた。このミトコンドリア放出現象はミトコンドリア呼吸鎖の阻害剤や脱共役剤で増加することから、ミトコンドリア障害に伴ってミトコンドリアの品質を保つために起きていることが推定された。
通常、品質の悪化したミトコンドリアはミトファジーで分解される。そこで、ミトファジーを促進するためにParkin遺伝子を細胞に強制発現したところ、ミトコンドリアの放出は減少し、反対に、ミトファジーが起きないようにノックダウンすると増加した。また、Parkinだけでなく、ミトファジーの鍵分子であるBNIP3(BCL2/adenovirus E1B 19 kDa protein-interacting protein 3)を強制発現し、ミトファジーを促進したところ、ミトコンドリアの放出は減少することがわかった。一方、オートファジーの鍵分子であるATG(Autophagy related gene)の欠損によりミトファジーが起きない細胞ではミトコンドリアの放出が増加していた。
Parkin変異のある患者の髄液中でミトコンドリア関連タンパク質が顕著に増加
このミトコンドリア放出現象はParkin遺伝子に変異のある患者の線維芽細胞でも観察されたため、実際にヒトの体内で起きていることが強く示唆される。また、脳内で起きたミトコンドリア放出現象の程度を患者で測定したところ、Parkin遺伝子に変異のある患者(PARK2)の脳脊髄液ではミトコンドリア関連タンパク質(Tom40)が顕著に増加していた。
以上の結果からヒトの脳の細胞内でミトファジーが起きず、細胞内に品質の悪化したミトコンドリアが増えると、細胞の外に放出することで細胞の環境を保っている可能性が示唆された。
今回の研究で、PDと新たなミトコンドリア品質管理メカニズムであるミトコンドリア放出現象との関連が示唆されると共に、その程度を遺伝性PD患者で測定することに成功した。「脳脊髄液におけるミトコンドリア成分の変化は早期の非遺伝性PDやアルツハイマー病でも報告されており、今後これらの神経変性疾患におけるミトコンドリア放出現象に基づくバイオマーカーや治療法の開発につながることが期待される」と、研究グループは述べている。
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