日本人特有、常染色体優性の脊髄小脳変性症「SCA31」
大阪大学産業科学研究所は1月8日、神経難病である脊髄小脳失調症31型(SCA31)のRNA毒性を緩和する低分子を世界で初めて発見したと発表した。この研究は、同研究所の柴田知範助教、中谷和彦教授(現:理事・副学長)ら、大学院医学系研究科の永井義隆寄附講座教授(神経難病認知症探索治療学寄附講座、現:近畿大学医学部主任教授)、大学院生命機能研究科の廣瀬哲郎教授、千葉工業大学先進工学研究科の河合剛太教授、東京医科歯科大学医学部附属病院長寿・健康人生推進センターの石川欽也教授らの研究グループによるもの。研究成果は、英国科学誌「Nature Communications」に掲載されている。
画像はリリースより
SCA31は、日本人に特有の常染色体優性の脊髄小脳変性症。日本国内には2,000〜4,000人ほどの患者がいると考えられている。
2009年に東京医科歯科大学の石川教授らが、SCA31の原因がTGGAAというDNAの5塩基の繰り返し配列(リピート)であり、このDNAから転写されるUGGAAリピートRNAが神経細胞核内に異常な凝集体RNA fociを形成することを報告。また、2017年には、大阪大学大学院医学系研究科の永井寄附講座教授と東京医科歯科大学の石川教授らのグループがSCA31モデルショウジョウバエを用いた研究から、SCA31がUGGAAリピートRNAの毒性により起こることを明らかにした。これらの先行研究により、UGGAAリピートRNAがSCA31の治療開発における重要な標的であると考えられていたが、UGGAAリピートRNAに結合する低分子化合物はこれまでに見出されていなかった。
大阪大学産業科学研究所の中谷教授らは、核酸塩基を水素結合により認識する核酸標的低分子に関する研究を推進し、ハンチントン病や脆弱X症候群などの原因となる繰り返し配列を持つ核酸を標的とするリピート結合低分子などを見出していた。
SCA31モデルショウジョウバエで、UGGAAリピートRNA毒性を緩和
研究グループは、これまでに独自に開発してきたリピート結合低分子を含む化合物ライブラリを用いて、UGGAAリピートRNA結合低分子の探索を行い、低分子ナフチリジンカーバメートダイマー(NCD)を見出した。
RNAとNCDの複合体構造を核磁気共鳴分光法により解析したところ、NCDがUGGAA配列中のグアニンを水素結合により認識してRNAに結合していることが明らかになった。また、NCDがUGGAAリピートRNAとタンパク質との結合や細胞内におけるRNA fociの形成を阻害することを確認。さらに、SCA31モデルショウジョウバエにおいて、UGGAAリピートRNAの毒性(複眼変性)を緩和することを確認したという。
リピートRNA標的の核酸標的低分子創薬に期待
今回の研究成果により、UGGAAリピートRNA標的低分子によるSCA31の治療開発への可能性が示された。
現在、世界中の創薬企業が核酸(DNA、RNA)を標的とした低分子創薬を開始している。今回の研究では、低分子化合物の創成、低分子とRNA複合体形成の詳細、その三次元構造の解析、細胞内の挙動、そして、個体での活性評価のすべてを日本の研究者が結集して達成した。
リピートRNAは、筋強直性ジストロフィー、脆弱X関連振戦/失調症候群、SCA、筋萎縮性側索硬化症などの神経難病の原因として知られており、リピートRNAを標的とした核酸標的低分子創薬が期待される、と研究グループは述べている。
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