医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 十二指腸乳頭部の胆管周囲付属腺の中に胆管上皮幹細胞が存在することを発見-東大病院

十二指腸乳頭部の胆管周囲付属腺の中に胆管上皮幹細胞が存在することを発見-東大病院

読了時間:約 3分10秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2021年01月20日 PM12:15

胆管の再生機構の解明は、他臓器に比べて非常に遅れていた

東京大学医学部附属病院は1月18日、十二指腸乳頭部の胆管周囲付属腺という小さな腺組織の中に、胆管上皮幹細胞が存在することを世界で初めて発見したと発表した。この研究は、同大医学部附属病院 消化器内科の早田有希医師、中川勇人助教(特任講師(病院))、小池和彦教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Gastroenterology」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

十二指腸乳頭部がんは進行し切除不能になると非常に予後不良だ。その理由として、比較的まれながんであるため確立された化学療法がないうえ、胆管と膵管が合流して十二指腸に開口するという解剖学的に複雑な部位に発生するため、・十二指腸がんの、どのがんに準じた化学療法を行うべきか明らかでないことが挙げられる。そのため、その発がん起源および分子発生機序の解明が急務だが、十二指腸乳頭部がんの動物モデルが存在しないことがその大きな障壁となっていた。

また、乳頭部がんを含む肝胆膵領域の手術後には、胆管の狭窄が比較的高頻度に生じることが問題となっている。胆管の再生機構の解明は他臓器に比べて非常に遅れており、ほとんど明らかになっていなかったが、近年、胆管周囲付属腺という胆管の周囲にある腺組織に胆管幹細胞が存在するとの説が提唱され、注目を集めていた。しかし、胆管周囲付属腺に発現する特異的なマーカーが同定されておらず、仮説として留まっていた。

Oddi括約筋が隣接する胆管周囲付属腺にRspo3を供給して幹細胞ニッチを形成し、胆管の恒常性を維持

研究グループはまず、マウスを用いて胆管付属腺特異的なマーカーの探索を行い、Wnt/βカテニン経路の標的遺伝子であるAxin2が、十二指腸乳頭部の胆管付属腺底部に特異的に発現していることを発見した。次に、遺伝子改変マウスを用いて細胞系譜解析を行ったところ、乳頭部のAxin2陽性胆管付属腺細胞が常に新しい胆管上皮細胞を供給し続ける様子が観察され、胆管幹細胞として機能していることを証明した。

ここで、同細胞集団が幹細胞として機能するメカニズムを解析したところ、Wntシグナルを増強させる働きをもつRspondin-3(Rspo3)が胆管付属腺に隣接する平滑筋に限局して発現していることを見出した。十二指腸乳頭部では、Oddi括約筋という平滑筋が胆管と膵管が合流した共通管を取り巻き、胆汁・膵液の排出を調節している。実際にヒト検体を用いた検討でも、乳頭部胆管付属腺特異的なAxin2の発現とOddi括約筋におけるRspo3の発現が確認された。

そこで、平滑筋細胞特異的にRspo3を欠損させたマウスを作製したところ、十二指腸乳頭が著明に萎縮してしまうことが判明した。加えて、総胆管の胆管周囲付属腺が萎縮を補うように増殖し、胆管の肥厚が生じることも明らかになった。このような平滑筋に取り囲まれた構造は、胆道系において十二指腸乳頭部だけにみられる特徴。つまり、Oddi括約筋が、隣接する胆管周囲付属腺にRspo3を供給することで同部位特異的な幹細胞ニッチを形成し、胆管の恒常性を維持しているものと考えられる。

Wnt阻害剤がマウスモデルの乳頭部がん発症を著明に抑制

このような組織幹細胞は長命な細胞であることから、遺伝子変異が蓄積することでがん起源にもなり得ると考えられている。そこでマウスの乳頭部胆管付属腺細胞に、ヒト乳頭部がんでも高頻度に遺伝子変異が認められるPTEN遺伝子の欠損を誘導したところ、全例で乳頭部がんを発生し、乳頭部がんマウスモデルを世界で初めて確立することに成功した。

一方で、胆管表層上皮細胞に同じ遺伝子変異を誘導しても乳頭部がんが全くできなかったことから、乳頭部の胆管周囲付属腺細胞は発がんポテンシャルが高い細胞集団であることもわかった。この実験結果から、乳頭部胆管付属腺に特異的に存在するWnt活性化ニッチが発がんに寄与しているのではないかという点に着目し、マウスモデルにWnt阻害剤を投与したところ、乳頭部がん発症を著明に抑制することもできたとしている。

胆管・乳頭部領域のさまざまな病態の解明に結びつく可能性

今回の研究結果は、これまで遅れていた胆管・乳頭部領域のさまざまな病態の解明に結びつく可能性がある。例えば、乳頭部がんや下部胆管がん、膵頭部がんなどの肝胆膵領域の手術では、Oddi括約筋を含めた十二指腸領域をすべて切除したのちに胆管と小腸を吻合するが、術後の合併症として胆管狭窄をきたす。胆管狭窄は黄疸や胆管炎をきたし、何度も入院加療が必要となる重要な合併症の一つだ。この現象は、乳頭部の胆管幹細胞ニッチが欠如してしまうことに起因するのかもしれない、と研究グループは推察している。

また、「世界初の乳頭部がんマウスモデルを樹立し、がん起源である乳頭部胆管付属腺の微小環境を阻害することで発がんを抑制できた。Wnt阻害剤は、新規の抗がん剤の一つとして注目されており、大腸がんなどで臨床試験も実施されている。同マウスモデルは新規薬剤の前臨床試験にも有用であり、今後さらなる病態理解とともに新たな治療法の開発に向けて研究を進めていく予定」と、述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • トイレは「ふた閉め洗浄」でもエアロゾルは漏れる、その飛距離が判明-産総研ほか
  • AYA世代の乳がん特異的な生物学的特徴を明らかに-横浜市大ほか
  • 小児白血病、NPM1融合遺伝子による誘導機序と有効な阻害剤が判明-東大
  • 抗血栓薬内服患者の脳出血重症化リスク、3種の薬剤別に解明-国循
  • 膠原病に伴う間質性肺疾患の免疫異常を解明、BALF解析で-京都府医大ほか