東日本大震災被害と子どもの時間選好性の関係解明を目的に
東京医科歯科大学は1月18日、東日本大震災において被災し、家屋が全壊または流出した子どもは、未来の大きな利益よりも目先の小さな利益を選ぶ傾向が高いことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の藤原武男教授と松山祐輔助教ら、米国ハーバード大学、東京大学、岩手医科大学、福島リハビリテーションセンターの研究グループによるもの。研究成果は、国際科学誌「PLOS ONE」掲載されている。
画像はリリースより
目先の小さな利益と未来の大きな利益のどちらを好むか(時間選好性)は、将来の健康状態や教育歴などを予測することが知られている。また、時間選好性は、環境により変化することが報告されている。子どもの時間選好性に、自然災害などのトラウマ体験がどのような影響を与えるかは明らかでない。
そこで今回、研究グループは、東日本大震災の被害と子どもの時間選好性の関係を明らかにすることを目的とし、研究を進めた。
震災によるトラウマ体験、時間選好性との関連は見られず
東日本大震災当時に宮城県、岩手県、福島県の保育園に通っており、園の協力が得られた子ども167人を対象に実施された(被災時平均年齢:4.8歳)。2014年に研究参加者の時間選好性をtime investment exercise法で測定。参加者はコインを5枚渡され、コイン1枚につき1個のキャンディを今もらうか、コイン1枚につき2個のキャンディを1か月後にもらうかを選ぶ。「今」にコインを多く置くほど、目先の小さな利益を好む傾向が大きいといえる。
子どもの年齢、性別、母親の教育歴、震災前の経済状況の影響を考慮した解析の結果、統計的に有意ではなかったものの、家屋が全壊または流出した子どもは、家屋の被害がなかった子どもに比べて、「今」にコインを0.535枚(95%信頼区間:-0.012,1.081)多く置いた。
その他、保護者との分離、親戚や友人が亡くなった、津波を目撃した、火災を目撃した、津波で流される人を目撃した、遺体を目撃したといった震災によるトラウマ体験は、時間選好性との関連が見られなかった。
震災による環境変化、将来に対する不確実性から目先の小さな利益を選む傾向か
東日本大震災において被災した子どもには、うつや肥満などの健康問題や問題行動が報告されている。今回の研究は、震災の被害が子どもの時間選好性に影響を与えたことを示唆する初めての研究だという。
研究結果より、震災で環境が変化したことで、将来に対する不確実性を感じ、目先の小さな利益を選むことが考えられる。東日本大震災から10年が経とうとする中、被災したことの影響を多面的に評価していくことが求められる、と研究グループは述べている。
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・東京医科歯科大学 プレスリリース