心理的ストレスの軽減に「COCOA」は寄与しているか
東京大学は1月15日、新型コロナウイルス感染症が拡大するつれ、企業従業員の心の健康がどのように変化するかを調べ、新型コロナウイルス接触確認アプリ「COCOA」のダウンロードを行った者は、行わなかった者と比較して、心理的ストレスありと答えた者の割合が低下していたことがわかったと発表した。これは、同大大学院医学系研究科精神保健学分野の川上憲人教授、佐々木那津大学院生らの研究グループによるもの。研究成果は、「JMIR Mental Health」に掲載されている。
画像はリリースより
新型コロナウイルス感染症流行の拡大防止のための手段の1つとして、接触確認アプリが効果的であるとされている。新型コロナウイルス感染症の流行にあたり、日本でも2020年6月19日に、厚生労働省から新型コロナウイルス接触確認アプリCOCOAがリリースされ、2020年12月初旬までに約2000万件以上ダウンロードされている。COCOAを利用することは人々に安心感を与え、新型コロナウイルス感染症拡大というストレッサーにうまく対処することで、心理的ストレスの軽減につながる可能性がある。しかしこれまで、新型コロナウイルス接触確認アプリをダウンロードすることが抑うつ・不安の軽減にどのような効果を与えるかは明らかになっていない。
心理的ストレスの発生率、COCOAダウンロード者11.8%に対し、それ以外は21.0%
研究グループは、企業従業員の心の健康がどのように変化するかを調べるため、「新型コロナウイルス感染症に関わる全国労働者オンライン調査(E-COCO-J)」を行っている。全国の企業の従業員約1,500人を対象に、2020年3月に初回調査を行い、その後、第2回調査(2020年5月22~27日)と第3回調査(8月7~12日)を実施。今回の研究には、COCOAリリース前に実施された第2回調査と、リリース後に実施された第3回調査のデータを使用した。
これらの調査では新型コロナウイルス感染症に対する心配を1項目(6件法)で、心理的ストレス(抑うつ・不安)をK6尺度で調べた。新型コロナウイルス感染症に対する心配は「いくらか」以上を心配あり、K6尺度は5点以上を心理的ストレスありとした。また、第3回の調査では、厚生労働省の新型コロナウイルス接触確認アプリCOCOAをダウンロードしたかについても質問した。
第3回調査には902人が回答(第2回調査の回答者の90.6%)し、COCOAをダウンロードしたのは184人(20.4%)であった。COCOAをダウンロードした者では第2回調査から第3回調査にかけて心理的ストレスの割合が減少し、ダウンロードしてない者ではその割合が増加していた。第2回調査で心理的ストレスのなかった者における第3回調査での心理的ストレスありの割合(発生率)は、COCOAをダウンロードした者で11.8%、それ以外の者で21.0%と大きな差が確認された(χ二乗検定,p=0.04)。基本的属性(性別、年齢、婚姻、学歴、同居する子供の有無、職種、テレワークの有無、慢性疾患の有無、5月に非常事態宣言のでた地域での居住)および第2回時点での心理的ストレスを調整した多重ロジステイック回帰では、COCOAのダウンロードと心理的ストレスの関係はオッズ比で0.59(95%信頼区間、0.38-0.91,p=0.02)と、ダウンロードした者で有意に心理的ストレスが生じにくいことがわかった。一方、COCOAをダウンロードした者とそうでない者の間で、新型コロナウイルス感染症への心配の有無に有意な差はみられなかった。
労働者以外にも一般住民でみられるかどうかを今後検証
COCOAをダウンロードすることは、新型コロナウイルス感染症への心配があっても心理的ストレスを増やさないで済むような効果があるかもしれない。しかし、COCOAの心理的ストレス改善効果が労働者以外にも一般住民でみられるかどうか確認する必要があり、またその機序を十分に研究しなければならないという。例えば、COCOAのインストールによりいくらか安心して外出できるようになったり、人との交流ができるようになったりしたことで心理的ストレスが改善するのかも知れないが、逆に、COCOAをダウンロードすることで、緊張が高まるなどの副作用があることも考えられる。「研究が進むことで、感染症流行時に接触確認アプリを利用して人々の心理的ストレスを改善し、心の健康の増進をはかることができるようになることが期待される」と、研究グループは述べている。
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・東京大学大学院医学系研究科・医学部 広報プレスリリース