Nox1が産生する活性酸素が精子幹細胞分裂に必要だが、作用機序は不明だった
京都大学は1月15日、酸素による活性酸素の制御が精子形成の維持に重要な役割を果たすことをモデルマウスによる実験で発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科 遺伝医学講座分子遺伝学分野の篠原隆司教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Genes and Development」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
細胞の中にはミトコンドリアという細胞内小器官があり、ここから大量の活性酸素が発生する。活性酸素はミトコンドリア以外にもNADPHオキシダーゼという酵素からも産生されており、この両者が主に細胞内の活性酸素量を決めている。
精子幹細胞は一生に渡り分裂し続けるが、そのメカニズムはあまりわかっていない。研究グループは2013年にこの細胞の分裂に関わる分子としてNox1という活性酸素を生じるNADPHオキシダーゼ酵素が重要な役割を果たしていることを報告している。この実験では、Nox1を欠損した精子幹細胞は正常な細胞に比べて分裂速度が低下していることから、Nox1が産生する活性酸素が精子幹細胞の分裂に必要であることが示された。
一般的に活性酸素は精子形成に悪いと考えられているため、この結果は予想外だった。そこで研究グループは今回、その作用機序を明らかにするためにNox1欠損マウスから精子幹細胞を培養する実験を行った。
精子幹細胞で酸素が活性酸素の産生を制御
Nox1を欠損した精子幹細胞を試験管内で培養したところ、野生型細胞と変わらず増殖することがわかった。この結果はこれまでのマウス生体内での観察結果と矛盾していたため、この違いを生む原因を調べた。さまざまな培養条件を検討した結果、生体内の酸素濃度に近い1%の酸素濃度でNox1欠損細胞を培養した時のみ、幹細胞の自己複製能がさらに低下することを見出した。
さらに、Hif1a欠損マウスの解析から、この低酸素における増殖抑制効果は、低酸素時のみに働く転写因子HIF1Aが、別の転写因子MYCを介して、CDKNA1という細胞分裂のブレーキ分子用いて細胞分裂を抑制していることがわかった。
精子形成の分化段階が進むとミトコンドリアの機能が重要
ところが、Nox1を欠損した細胞は、活性酸素を生じる酵素であるNox1を欠損しているにもかかわらず、細胞内の活性酸素の量はさらに増えていた。そこで、活性酸素を大量に産生するもう一つの源であるミトコンドリアを調べた。すると、低酸素ではミトコンドリアが増えていることがわかった。
さらにミトコンドリアが精子幹細胞に与える影響を調べるため、ミトコンドリア特異的な遺伝子修復酵素であるTop1mtを欠損するマウスを解析した。このマウスではミトコンドリアにDNA突然変異が集積するため、ミトコンドリアの機能が細胞分裂と共に悪化する。Top1mt欠損マウスは、若い時には正常に子孫を作ることができたが、加齢と共に精子形成が減弱して不妊症になることがわかった。また、それにもかかわらず、このマウスの精子幹細胞は正常に分裂していた。
ミトコンドリア機能不全が加齢に伴う不妊と関連する可能性
従来は活性酸素が精子形成に悪影響を与えると考えられていたが、酸素が幹細胞において活性酸素の産生を制御することが初めて判明した。ミトコンドリアがないと分化した精子形成細胞が消失すること、また、Top1mt欠損マウスで見られたように若い時には正常に子孫を作ることができても、加齢と共に精子形成が減弱して不妊になることがあることから、ミトコンドリアの機能不全がそのようなケースの原因となっている可能性がある。「今後、異なる起源の活性酸素が精子形成の過程でどのように使い分けられているかを明らかにしていきたい」と、研究グループは述べている。
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