高臨場感映像の視聴リスク「映像酔い」、回復過程の脳メカニズムは?
京都大学は1月14日、機能的磁気共鳴画像法(functional Magnetic Resonance Imaging:fMRI)を使って映像酔い前後での脳機能ネットワーク(脳の領域間の機能的な関連度合い)を調べたところ、回復している最中に増加する結合を発見したと発表した。この研究は、同大人間・環境学研究科の山本洋紀助教、京セラ株式会社先進技術研究所の宮崎淳吾研究員、明治国際医療大学の研究グループによるもの。研究成果は、「Experimental Brain Research」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
「車酔い」は乗車中に近くのものを見ていると起きやすく、自動運転中の視覚ディスプレイの使用はそのリスクを高めてしまう。車に乗っていなくても、ただ椅子に座って映像を観ているだけでも「車酔い」と同様な症状が起きることが知られており、これは「映像酔い」と呼ばれる。映像酔いは、新型コロナウィルス感染症拡大にともなって普及が進む、オンライン会議システムやVRシステムなどの高臨場感映像の視聴においてもリスクとして問題となっている。映像酔いが起きる詳しいメカニズムはわかっていないが、脳の中で視覚、前庭感覚(平衡感覚)、体性感覚といった感覚情報が相互作用する過程で、何らかの異常が生じることが原因と考えられている。
映像酔いは多くの場合、映像を観はじめるとじわじわ気持ち悪さが増していき、映像を停止すると徐々に回復して不快感が薄れていく。映像酔いが起きる過程の脳のふるまいについては、fMRIなどの脳機能イメージング技術を使って近年調べられてきた。しかし、映像酔いの症状が和らいで回復する過程については、何もわかっていなかった。映像酔いの回復過程を明らかにすることは、回復を促進する方法を考えるうえでとても有用であると同時に、映像酔いのメカニズムの理解を深めるうえで重要だ。そこで、研究グループは、映像酔いから回復している最中の脳活動をfMRIによって調べた。
体調意識や視覚情報処理、記憶に関与する脳ネットワークの結合が増強
この研究では、14人の実験参加者に酔いにくい動画(非酔動画)と映像酔いしやすい動画(酔動画)を順番に観てもらった。14人のうち、6人は映像酔いしなかったが、残りの8人は酔動画を観ている間に酔った。各動画の前後、3回の安静期間を設け、映像酔いした参加者は酔動画直後の安静期間に映像酔い症状は回復した。この回復している安静な状態と、酔う前の映像酔いとは無関係な2回の安静状態との間で脳のふるまいを比較した。
映像酔いではないものの、過去の研究で、身体的・心理的ストレスにさらされた状態の脳では、特定の脳領域間の機能結合が変化していることが報告されており、今回の研究でもこの脳機能結合を調べた。その結果、映像酔いから回復している間、島、帯状回、視覚野、海馬傍回といった特定の脳ネットワークの結合が非常に強くなっていることを発見。これらの脳領域は、自分の体調を意識するときに働くほか、視覚情報の処理・記憶に関与することが報告されてきた。したがって、今回発見された映像酔いからの回復過程における脳機能結合の増加は、映像酔いの不快感が和らいでいく自分自身の心身状態への自覚や、映像酔いへの「馴れ」につながる視覚情報処理回路や記憶回路の可塑的変化を反映している可能性が考えられた。
回復促進の技術開発に期待
今回の研究成果は、自動運転時代やwithコロナ社会で予想される、車酔いや映像酔いのリスク増加に対して、その回復を促進する技術開発につながることが期待されるという。より本質的には、映像酔い・車酔いを未然に抑止することが重要であり、研究グループは今後、これを実現する技術開発に取り組む予定だとしている。
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