0.6m間隔での各感染リスクモデルを構築しシミュレーション
近畿大学は1月8日、医療現場における新型コロナウイルス感染症のリスクを、「飛沫感染」「接触感染」「空気感染」といった感染経路別に推算するモデルを構築して経路別の感染リスクを算出し、同時に、「サージカルマスク」「フェイスシールド」「換気」等の感染予防策を行った場合の効果も評価した結果、患者と医療従事者が近接する状況においては、飛沫感染が主な感染経路であり、次に接触感染であることが判明したと発表した。この研究は、同大が全学を挙げて取り組んでいる「”オール近大”新型コロナウイルス感染症対策支援プロジェクト」の一環として実施されたもので、同大医学部環境医学・行動科学教室の東賢一准教授を中心とする研究グループによるもの。研究成果は、「Environment International」に掲載されている。
画像はリリースより
新型コロナウイルス感染症では、人から人への二次感染において、「飛沫感染」「接触感染」「空気感染」といった感染経路を明らかにし、より効果的な感染予防策を講じることが極めて重要だ。感染経路ごとの感染リスクを求めて比較することができれば、どの感染経路に注意すればよいかが数値的にわかり、効果的な対策ができる。
そこで今回、研究グループは、感染者と非感染者が近接する状況(0.6mの間隔)において、さまざまな感染経路からの感染リスクを推算するモデルを構築してシミュレーションした。対象は逼迫している医療提供体制において、可能な限り感染リスクを低減する必要のある医療現場とし、新型コロナウイルス感染症の入院患者をケアする医療従事者の感染リスクを感染経路別に計算して、それぞれの感染経路の寄与を比較した。
患者と接触した時間・回数の違いや感染予防策の実施有無で比較
想定した感染経路は、患者と近接時に、患者の咳や会話によって発生した飛沫を直接吸入することによる感染、飛沫が顔の粘膜に直接付着することによる感染、飛沫が患者付近の物体の表面に付着し、表面を手で触って付着したウイルスが手に付き、その手で顔の粘膜に触ることによる接触感染、手に直接飛沫が付着し、その手で顔の粘膜を触ることによる接触感染。また、病室において患者と同室時、患者の呼吸や咳、会話によって発生した飛沫核を吸入することによる空気感染についても感染リスクを計算した。
医療従事者が1日の間に1名の患者と中程度の接触(1分間の接触を20回)をした場合と、長い接触(10分間の接触を6回、うち会話を30分間)をした場合についてそれぞれ計算した。また、その際、医療従事者がサージカルマスクを着用した場合、フェイスシールドを着用した場合、サージカルマスクとフェイスシールドを着用した場合、患者がサージカルマスクを着用した場合、患者がサージカルマスクを着用したうえで換気回数を2回/時から6回/時に増やした場合についても、それぞれ計算を行った。
感染経路は飛沫>接触、患者のマスク着用と適正な換気が重要
想定したすべての経路の感染リスクに対する各経路の寄与率を求めたところ、患者の唾液中のウイルス濃度によって大きく変わったが、患者の多くが該当すると考えられる唾液中ウイルス濃度の場合、飛沫が顔の粘膜に直接付着することによる感染のリスクが60%~86%と最も高いことがわかった。次に寄与率が高かったのは、汚染表面からの接触感染のリスクで、9%~32%だった。なお、接触時間が長く、手洗いの頻度が少ない場合は、中程度の接触時間で、手洗いの頻度が多い場合に比べて、接触感染のリスクの寄与率が高くなった。さらに、新型コロナウイルスの唾液中濃度が高くなると接触感染の寄与率が上昇した。また、まれなケースとして患者の唾液中のウイルスが非常に高濃度で、下気道における感染リスクを高く見積もった場合は、飛沫核による空気感染のリスクの寄与が5%~27%まで上昇した。以上の結果から、飛沫感染が主な感染経路で、接触感染のリスクもあり、まれに空気感染の可能性もあるという、従来考えられてきた感染経路と同様の結果が得られ、それらを数値でより明確に示すことができた。
また、個人防護具などの対策の効果については、医療従事者がサージカルマスクを着用した場合は感染リスクが63~64%低減、フェイスシールドをした場合は97~98%低減、サージカルマスクとフェイスシールドを両方着用した場合は99.9%以上低減した。一方、患者がサージカルマスクを着用した場合は感染リスクが99.99%以上低減し、患者がサージカルマスクを着用したうえで換気回数を2回/時から6回/時に増やした場合、リスクはさらにその半分以下となった。以上のことから、医療現場では医療従事者がサージカルマスクやフェイスシールドを着用することの有効性と、患者がサージカルマスクを着用すること、換気を適正に保つことの重要性が示された。
研究グループは、「研究の対象は医療機関の患者と医療従事者の二次感染としたが、接客を伴う飲食や介護の現場など、人と人が近接する場面における二次感染にもおおよそ当てはまり、他業界での感染対策への応用が期待される」と、述べている。
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