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オートファジー不全で腸管バリア機能が破綻するメカニズムを解明-東北大

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2021年01月07日 AM11:30

オートファジーの機能低下が、どのように炎症性腸疾患の発症につながるのか?

東北大学は1月6日、ショウジョウバエをモデル生物として、腸管上皮細胞でのオートファジー不全が腸内常在菌に対して過剰な修復応答を起こすこと、これが慢性的に続くことで腸管バリア機能が低下して全身炎症が生じることを見出し、その詳細な仕組みを解明したと発表した。この研究は、同大大学院薬学研究科の矢野環准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Developmental Cell」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより

炎症性腸疾患は腸管粘膜に慢性の炎症や潰瘍を起こす病気で、発熱、栄養障害、肝障害などの全身性合併症をもたらす。なかでもクローン病は、遺伝的要因と環境要因(細菌、ウイルスの感染、喫煙など)が複雑に関係していることがわかってきているものの、発症原因が不明で根治療法がなく、国の指定難病とされている。したがって、発症の原因とその機構を明らかにし、炎症性腸疾患に対する創薬の基盤を得ることが重要だ。

これまでに、ヒト患者のゲノム解析や、モデルマウスを用いた研究が盛んに行われており、クローン病の遺伝的背景として、オートファジー関連因子の変異があげられている。オートファジーは細胞内で物質分解に働く機構だが、その機能低下がどのような物質の分解低下を起こして炎症性腸疾患の発症につながるのか、また、オートファジー機能の低下(遺伝的要因)が環境要因とどのように関係しているのかについては不明だった。特に、クローン病患者では腸内細菌叢が変化するが、これが病態発症の原因であるのか、それとも炎症が起きた結果として生じているのかは明らかにされていなかった。

オートファジー機能の低下で善玉菌に対して病原菌に対するような応答が起き続け、慢性的な炎症状態に

ショウジョウバエ成体の腸管は、ヒトと同様に層状の上皮細胞で覆われていることから、腸管上皮組織研究における有用なモデルとして用いられてきた。また、ショウジョウバエの腸内細菌叢はヒトと比べてシンプルで、さらに、無菌状態にする、あるいは単一の菌で置き換える、といった操作が比較的容易であることから、腸内細菌が関与する現象の解析にも有用とされている。研究グループはこれらの背景をふまえ、腸管上皮細胞においてオートファジー機能が低下したショウジョウバエ個体を作製し、これを腸管炎症のモデル動物として利用して、腸管組織におけるオートファジーの機能不全が炎症を起こす機構、また、腸内細菌との関連を解析した。

その結果、腸管上皮細胞においてオートファジーの機能が低下していると、通常では悪影響を及ぼさない腸内常在菌(いわゆる善玉菌)に対して、不要な細胞内シグナルが活性化して、サイトカインupd3(ほ乳類IL-6のホモログ)の異常な分泌亢進が生じること、それが腸管幹細胞に働きかけて幹細胞の異常分裂を起こし、上皮細胞の結合に破綻が生じてくることを明らかにした。

オートファジー不全で腸管バリア機能の低下が若齢から生じ、全身の炎症と寿命の短縮が発生

さらに、この分子機構を詳細に解析し、腸内常在菌に対して上皮細胞自らが産生した活性酸素種に反応して、オートファジーが選択的に分解することのできるターゲットタンパク質Ref(2)P(ほ乳類p62/SQSTM1のホモログ)が腸管上皮細胞内で大きなシグナルプラットフォームを形成すること、また、オートファジーはこれをターゲットとして分解により除去することで、常在菌に対する不要なシグナル活性化を抑制することを明らかにした。

つまり、オートファジー不全腸管では腸内常在菌に対して、あたかも病原性細菌に対するかのような損傷応答(幹細胞の分裂亢進)が起きてしまうため、損傷応答が慢性的に起き続けることが判明。さらに、腸管上皮でオートファジーの機能が不全だと、加齢とともに生じる腸管バリア機能の低下がより若齢から生じ、その結果、全身の炎症と寿命の短縮が起きることが明らかになった。

炎症性腸疾患の発症機序解明につながる可能性

今回の研究成果により、腸管上皮組織におけるオートファジーの新たな機能が判明し、その機能不全によって起きる炎症の機構が明らかにされた。

「本研究により明らかになった機構に働く因子は、いずれもヒトにまで保存されており、ヒトの炎症性腸疾患であるクローン病の発症原因の解明につながる重要な知見となることが期待される」と、研究グループは述べている。

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