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認知症、ミクログリアの機能低下が神経変性の進行と相関-名大ほか

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2021年01月07日 AM11:45

AD病態メカニズムの一翼を担う「神経炎症」に注目

名古屋大学は1月5日、ミクログリアの機能低下が神経変性の進行と相関し、認知症病態に重要であることを解明したと発表した。これは、同大環境医学研究所/医学系研究科の祖父江顕特任助教、山中宏二教授らの研究グループが、同環境医学研究所の荻朋男教授、・高齢者ブレインバンクらと共同で行った研究によるもの。研究成果は、「Acta neuropathological communications」に掲載されている。


画像はリリースより

認知症患者数は年々増加し、日本において2025年には約700万人に達すると推計されており(厚生労働省老健局資料、令和元年)、その早期診断と治療法開発への社会的要請が強い疾患である。認知症の代表的疾患として知られるアルツハイマー病(AD)の中心となる病理は、・タウタンパク質の異常蓄積であり、これらは神経変性に至る主要な病因タンパク質だ。また、同疾患の初期・軽症例における認知機能障害に対する対症療法は存在するが、症状の進行や神経細胞死を抑止する治療法は確立していないため、疾患の進行を制御しうる治療法開発に向けた多面的な研究開発が必須だ。

AD脳の老人斑に集まるミクログリアは、神経細胞外に放出されたアミロイドβを異物として認識・貪食するグリア細胞の一種。AD等の神経変性疾患の病巣で、病因タンパク質に対してミクログリアの活性化や応答異常を来たし、炎症性分子の過剰な放出や神経保護機能の喪失などにより神経周囲の環境が神経細胞にとって有害な環境に転換する「神経炎症」と呼ばれる現象が、ADの病態メカニズムの一翼を担うものとして注目されているが、神経変性の進行とミクログリアの反応性の相関についてはわかっていない。

rTg4510マウス、SOD1G93Aマウスで恒常性ミクログリア遺伝子の発現低下が著明

研究グループは、認知症におけるアミロイド、タウ病理の相違、神経変性の相違によるミクログリアの反応性を比較検討するため、App-KI(アミロイド病理を呈する)マウスとrTg4510(タウ病理および神経細胞死を呈する)マウスの大脳皮質から単離したミクログリアについて次世代シークエンスを用いて遺伝子網羅的発現解析した。なお、神経変性・炎症が高度であるALSモデル(SOD1G93A)も陽性対照として比較検討した。

その結果、App-KIと比較して神経変性の程度が強いタウ病理を呈するrTg4510およびSOD1G93Aではミクログリアの生理機能を反映する恒常性ミクログリア遺伝子の発現低下が著明であることが確認された。一方、疾患ミクログリアに共通する新概念であるDAM遺伝子はApp-KI、rTg4510、SOD1G93Aの全てにおいて上昇しており、神経変性との相関は見られなかった。

ヒトAD早期病理でもミクログリアの生理機能低下が示唆され、神経炎症が病態に関与する可能性

また、早期ADと病理学的に診断されたヒト死後脳の楔前部における遺伝子発現解析も行った。楔前部は、アミロイドβがADの早期から蓄積する脳部位として知られているが、遺伝子発現の詳細は解析されていない。その結果、ミクログリア特異的遺伝子の発現低下が確認できたが、DAM遺伝子の発現上昇を認めなかった。

このことから、ADモデルのミクログリアは、神経変性の進行(アミロイド病理からタウ病理への進展)に沿って、その生理機能の低下を来し、病態の進行に寄与する可能性があり、ヒトADの早期病理においても、ミクログリアの生理機能低下が示唆され、神経炎症が病態に関与する可能性が考えられるという。

神経変性疾患におけるミクログリアの活性化を説明するDAMという概念が提唱されている。一方、今回の研究で明らかになったミクログリアの生理機能の低下を反映する恒常性ミクログリアの発現低下は神経変性の程度と相関することから、病態進行の鍵となる重要な変化であると考えられる。研究グループは「認知症発症前のミクログリアを中心とした脳内環境の変化が認知機能へもたらすメカニズムの解明や、ミクログリアを標的とした認知症の新規治療法開発に向けた研究への応用が期待される」と、述べている。

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