腫瘍免疫応答において重要な役割を持ち、炎症病態に寄与するSTING経路
東北大学は1月5日、ウイルス感染の刺激がない状態でも、シグナル伝達経路であるSTINGが小胞体からゴルジ体へ移動しており、COP-I小胞が常にSTINGをゴルジ体から小胞体へ戻すことで、STINGの活性化を抑制する機構が存在することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院生命科学研究科の向井康治朗助教、田口友彦教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」電子版に掲載されている。
画像はリリースより
自然免疫応答経路の1つであるSTING経路は、DNAウイルス感染した際に活性化してI型インターフェロンを誘導するシグナル伝達経路。昨今、このSTING経路はウイルスDNAだけでなく自己ゲノムDNAやミトコンドリアDNAにも応答すること(DNA刺激による応答)が明らかになり、腫瘍免疫応答において重要な役割を果たすことや、自己炎症性疾患、老化性炎症、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症における炎症病態に寄与することが報告され、非常に注目されている。これまでのSTING経路の研究は、マウスを用いた病態モデルでの解析が中心であり、細胞内でのSTINGの活性制御機構に迫った研究は限られていた。
これまでに研究グループは、DNAウイルス感染時のSTING経路の活性化機構を解析し、DNAウイルス感染に伴ってSTINGが小胞体からゴルジ体へ移行すること、およびゴルジ体でSTINGがパルミトイル化されて下流シグナルが活性化することを明らかにしてきた。
STINGの活性化阻害剤が自己炎症性疾患の治療に有用であることに期待
研究グループは今回、ウイルス感染がない定常状態でのSTINGの制御機構を解析。その結果、DNA刺激がない状態において、STINGが活性化しないように積極的に小胞体に留める機構が存在することを、マウスの胎児線維芽細胞を用いた実験によって発見した。
COP-I小胞輸送は、ゴルジ体から小胞体への物質輸送を担う膜輸送経路として知られている。このCOP-I小胞輸送を阻害すると、DNA刺激がない状態でもSTINGがゴルジ体に蓄積し、炎症応答が惹起された。このことから、普段からDNA刺激がない状態でもSTINGは小胞体からゴルジ体へ移動しており、それを上回るスピードでCOP-I小胞輸送がSTINGを小胞体に戻すことで、ゴルジ体に蓄積することを防ぐ機構が存在することが示唆された。さらに、STINGのリガンドであるcGAMPで刺激した細胞や、STINGが恒常的に活性化するSAVIや、COPA異常症の細胞の中では、STINGのCOP-I小胞輸送が阻害されることでSTINGがゴルジ体に蓄積し、炎症応答が誘導されることがわかった。これらの結果から、SAVIやCOPA異常症の病態発症の分子機構と、腫瘍免疫療法において着目されているSTINGリガンドの細胞内での役割が明らかになった。
今後、STINGのゴルジ体―小胞体間輸送制御機構やゴルジ体でのSTINGの活性化機構が、自己炎症性疾患の創薬標的となることが期待される。
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