IMPTは根治線量を投与しつつ正常臓器への線量が大幅に低減可能
北海道大学は1月5日、上・中・下咽頭がん患者に対して強度変調陽子線治療(Intensity-modulated proton therapy:IMPT)を実施し、照射中の嚥下障害などの副作用が、エックス線治療(強度変調放射線治療、Intensity-modulated radiation therapy:IMRT)を実施した患者よりも軽症であることを実証したと発表した。この研究は、同大学病院放射線治療科の安田耕一助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Radiation Research」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
咽頭がんの放射線治療は、外科治療と比較して嚥下機能などを温存できるというメリットがあり、1つの重要な治療法の柱となっている。IMRTの発展により口内乾燥など一部の副作用は低減したが、それ以外にもさまざまな副作用が発生し患者の苦痛につながっている。
IMPTは、小さな陽子線のスポットを照射する方向、強さをコンピューター上で計算して最適化することにより、IMRTよりも自由度の高い線量投与が可能となる技術。がんに根治線量を投与しつつ、正常臓器への線量が大幅に低減可能なIMPTの技術を咽頭がん治療に応用することで、患者の副作用低減が期待された。
嚥下障害、味覚障害ともにIMPT<IMRT
研究グループは、2016年から2019年にかけてIMPTによって治療された15例の咽頭がん患者について、後ろ向き解析を実施。全例で治療前にIMPTとIMRTの2つの放射線治療計画をシミュレーションで作成し、統計学的モデルを用いた副作用発症率の予測を行った。頭頸部がんキャンサーボードでこれらの結果を示し、全例においてIMPTの適応と判断され、実際に治療を行った。また、同時期にIMRTで治療された127例の患者と副作用を比較した。
その結果、治療前のIMPTとIMRTの放射線治療計画シミュレーション比較においては、のどや口などの正常臓器線量は全てIMPTの方が低く、統計学的モデルによる嚥下障害、味覚障害などの予測副作用発症率も全てIMPTが低い値だった。実際にIMPTで治療した15例と、IMRTで治療した127例の副作用を比較したところ、中等度以上の嚥下障害発症率はIMPTで21%、IMRTで57%、味覚障害はIMPTで47%、IMRTで76%だった。多変量解析を行い、これらの副作用発症率に関して、照射方法(IMPTかIMRTか)が独立因子であることが判明した。
現在、咽頭がんの陽子線治療は保険適応となっておらず先進医療の枠組みで実施されている。しかし、「今回の研究成果のような知見の積み重ねにより、将来的により多くの患者に副作用の少ない治療が提供されることが期待される」と、研究グループは述べている。
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