運動課題と認知課題の2つを同時に行う「二重課題運動」
筑波大学は12月28日、二重課題運動の実践が、高齢者の身体機能や認知機能を部分的に向上させる上で有効である可能性が示唆されたと発表した。これは、同大テーラーメイドQOLプログラム開発研究センターの尹之恩(ユン ジウン)研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、「Aging」に掲載されている。
画像はリリースより
加齢に伴い身体や認知機能が衰えていく一方で、運動の実施が身体機能や認知機能の維持・向上に寄与する可能性があることが報告されている。近年、動物実験や実験室レベルでのヒト研究、疫学調査研究によって、運動や身体活動による認知機能の低下抑制効果を示唆するデータが数多く示されているが、それらのほとんどは、身体機能の向上に着目しており、認知機能に対する効果は微弱なものだった。
近年、運動課題と認知課題の2つの課題を同時に行う二重課題運動が注目されており、さまざまなプログラムが開発されている。研究グループは今回、その一つとして、高齢者でも無理なく楽しめる「シナプソロジー(R)」と呼ばれる運動プログラムについて、高齢者の身体機能と認知機能に与える有効性の定量的評価を試みた。具体的には、じゃんけん、ボール回しといった基本動作に対し、感覚器を通じて入る刺激や、認知機能に対する刺激を変化させ続け、その刺激に対して反応することで、脳を活性化させていく。できること(習得)を目的とせず、できないことに対応する状態を作り出すことで脳機能の向上を図るもの。
8週間でも効果的、同プログラムを自治体や介護施設で行うことで認知症予防につながる可能性
研究では、以下の実験により、二重課題運動が高齢者の身体機能や認知機能を維持・向上できる可能性を示した。平均年齢70.6歳(65〜77歳)の高齢者24人を、二重課題運動を実施するグループ(実施群)と実施しないグループ(対照群)とに無作為に分け、実施群には二重課題運動を3週間に渡って、週2回(60分/回)実施。その結果、参加者の身体機能評価項目であるTUG(timed-up-and-go)と、認知機能評価項目である25-hole trail-making peg testおよび血液中の酸化ストレス(d-ROMs)が維持・向上された。一方、運動を実施しなかった対照群は、これらの評価項目の有意な向上は見られなかった。
今回の研究で実施した二重課題運動プログラムは、8週間という短期間でもその効果が認められたという。また、集団でも楽しめるように構成されているため、実施群の運動参加率の高さにつながったとしている。
今回の研究結果から、二重課題運動が、高齢者の身体機能および認知機能の維持・向上に有効である可能性が示された。特に、普段運動習慣がないもしくは運動に馴染みがない高齢者も、楽しく実施できる工夫を施すことにより、より効果的な運動プログラムになると考えられる。「このような運動プログラムが自治体や介護施設などに普及することで、認知症予防につながることが期待される」と、研究グループは述べている。
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・筑波大学 TSUKUBA JOURNAL