医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 新型コロナ、都道府県連携による医療シェアのシミュレーション手法開発-京大

新型コロナ、都道府県連携による医療シェアのシミュレーション手法開発-京大

読了時間:約 3分25秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2020年12月29日 PM01:00

重症者が各都道府県の重症者病床数限界を超えないために

京都大学は12月28日、新型コロナウイルスの重症者が各都道府県の重症者病床数の限界を超えないように、都道府県が連携して医療リソースを最適に割り当てる(シェアリングする)シミュレーション手法を開発したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科の奥野恭史教授、岡本有司特定助教らの研究グループによるもの。研究成果は、京都大学大学院医学研究科ビッグデータ医科学分野のウェブサイトで公開されている。


画像はリリースより

現在も新型コロナウイルスの感染者数、入院者数、重症者数は増加し続けており、医療現場は医療崩壊の危機にさらされている。このような状況下において、今後の患者数の推移を予測しながら、先手を打ったさまざまな対策を講じることが強く求められている。とりわけ、昨今の患者数の急増や医師・看護師人材の不足により受け入れ病床が逼迫しており、各自治体・医療機関においても医療体制の強化が努められている。

単一都道府県、単一医療圏での対策では、入院患者、重症患者等の受け入れが困難となる可能性もある。さらに重症病床満床の状態が持続すると、当該地域での医療の質の低下の可能性や医師・看護師の疲弊による離職によるさらなる人材不足が懸念される。

都道府県間の医療シェアリング必要時期を早期予測

今回の研究では、重症病床使用率と広域医療連携に着目し、「GoogleのCOVID-19感染予測に基づく、都道府県別の重症者数の予測と重症病床数との関係を示すグラフ表示」「特定の地域が重症病床使用率100%、80%を超える場合における、都道府県をまたぐ医療リソースの最適シェアリング方針の提案」について、研究を進めた。

まず、GoogleのCOVID-19感染予測では、都道府県ごとの陽性者数、患者数は予測されているが、重症者数は予測されていない。そこで研究グループは、Googleの新型コロナウイルス患者の予測値と厚労省が発表する都道府県ごとの重症者数比を統計処理し、都道府県ごとの重症者数を推定。これにより、都道府県ごとの今後の重症病床使用率の変化を推測することができる。

これらの予測により、将来、重症病床使用率が100%を超える可能性がある場合、最悪の事態に備えて、病床数を増やし、対応する医療従事者も増員する必要がある。実際、東京や大阪では受け入れ施設の拡充や医療従事者の増員が進められている。このように、単一都道府県での対策で対処できているうちは良いが、今後感染拡大が続いた場合、複数地域において現有医療リソースが飽和する可能性もゼロではない。このような事態に直面した場合の一つの対処方法として、研究グループは、都道府県をまたぐ広域の医療連携ネットワークを構築することを考え、計算機シミュレーションによって医療リソースの地域間シェアリングが感染拡大の深刻な地域の重症病床使用率緩和に有効であることを証明した。

具体的には、各都道府県の保有重症病床数を各都道府県の重症者対応可能な医療リソースであると定義し、重症病床使用率が100%を超えた都道府県が発生した場合に、周辺地域から医療リソース(重症病床数として換算)を分配(シェアリング)することで、100%を超えた重症病床使用率を緩和することに成功。

シミュレーション計算は、すべての都道府県が保有重症病床数の上限を超えない条件のもとで、100%超えと予測された地域とその周辺の都道府県間の距離を最小にするように最適化を行っている。2020年12月19日のGoogle予測データを用いた結果では、京都府が2020年12月27日から、広島県が1月1日から、重症病床使用率が100%を超えると予測され、これを回避するために、京都府は滋賀県、奈良県、大阪府の順に医療シェアリングを行うことで、また、広島県は愛媛県、山口県の順にシェアリングすることで、100%超えを抑制できることがシミュレーション結果から得られているという。

このように、解析によって、医療崩壊を防ぐために都道府県間で医療シェアリングが必要になる時期を早期に予測することができるとしている。なお、同解析は、ベースとして用いているGoogleの予測結果や厚生労働省の病床数関連データが更新されるたびに実施し、即時公開を行っていく。

広域単位での医療リソースシェア可能なネットワーク体制構築を

連携可能な都道府県同士、医療圏同士が広域新型コロナ対策医療圏を策定し、同解析で提案する都道府県間のシェアを行うことで、広域医療圏全体で質の高い重症患者への均質な医療提供が可能となる。このためには、都道府県間、医療圏間で協議を行い、都市部、地方部のそれぞれの医療機関での患者受け入れ可能状況を加味した広域単位での医療リソースをシェアできるネットワーク体制を早急に構築することが肝要だという。研究グループは、受け入れ担当窓口を設置し、同ネットワークを介した医療リソースの割り振りを行うことで、刻々と変化する医療実態に即した割り当てが実現できるものと考えている。

また、同研究で予測する都道府県ごとの重症患者数は、GoogleのCOVID-19感染予測に基づいており、Googleの予測結果の精度が問題になってきている。Googleの予測結果は短期間であれば精度が良いが、長期間の予測結果は予測日ごとに結果が変わることがあるため、今後はより正確な予測手法を開発し、その結果をもとに地域間医療シェアリングの計算機シミュレーションを行う予定だという。

その他、医療現場を逼迫する要素は重症患者数だけではなく、中等症等の入院患者数の増加もあることから、今後、入院患者を対象にした医療シェアリングの予測も行う予定だとしている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 「働きすぎの医師」を精神運動覚醒テストにより評価する新手法を確立-順大ほか
  • 自己免疫疾患の発症、病原性CD4 T細胞に発現のマイクロRNAが関与-NIBIOHNほか
  • 重症薬疹のTEN、空間プロテオミクス解析でJAK阻害剤が有効と判明-新潟大ほか
  • トリプルネガティブ乳がん、新規治療標的分子ZCCHC24を同定-科学大ほか
  • トイレは「ふた閉め洗浄」でもエアロゾルは漏れる、その飛距離が判明-産総研ほか