先行研究より、Ph-like ALL症例から新たな融合遺伝子NCOR1-LYNを同定
京都府立医科大学は12月25日、小児急性リンパ性白血病(ALL)の予後不良群で同定されたLYN関連融合遺伝子である、NCOR1-LYNに対してチロシンキナーゼ阻害剤ダサチニブの有効性を証明したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科小児科学の冨井敏宏大学院生(当時)、今村俊彦講師、細井創教授らの研究グループによるもの。研究成果は、科学雑誌「Leukemia」に掲載されている。
画像はリリースより
急性リンパ性白血病(ALL)は小児期に発生する造血器悪性疾患の中で、最も高頻度にみられる疾患。小児ALLの治療成績はこの数十年で飛躍的に向上し、長期生存率は80~90%に到達した。しかし、今なお治療成績の悪いサブグループが存在し、その1つの一群がPh-like ALLだ。Ph-like ALLは、慢性骨髄性白血病やALLで見られるフィラデルフィア(Ph)染色体は認めないにも関わらず、遺伝子発現プロファイルがPh染色体のあるALL(Ph 陽性ALL)に類似している一群。近年この群の中でさまざまな遺伝子異常が同定されており、遺伝子異常の種類によって分子標的薬の併用を検討し、治療成績の向上を図る戦略が行われるようになってきている。
研究グループは先行研究より、Ph-like ALL症例の中からNCOR1-LYNという新たな融合遺伝子を同定。LYNは細胞の分化・増殖などさまざまな細胞のシグナル伝達に関わる酵素であるチロシンキナーゼと呼ばれるものの1つだ。LYNの融合遺伝子はPh-like ALLで他にも報告されており、チロシンキナーゼ阻害剤の使用がLYN関連融合遺伝子を有する症例の治療成績の向上につながると期待される。
ダサチニブ投与で、マウスの生存期間が有意に延長
今回、NCOR1-LYNに対して腫瘍性の細胞増殖を発生させるメカニズムを検討すると共に、チロシンキナーゼ阻害剤の効果について、患者白血病細胞を移植したマウスモデルを用いて検討。最初に、IL-3依存性に増殖するマウスの血液細胞であるBa/F3細胞にNCOR1-LYN遺伝子を導入した結果、IL-3非依存の細胞増殖が確認され、NCOR1-LYNが細胞増殖活性を有することが示された。
また、LYNのキナーゼドメインのチロシンをフェニルアラニンに置換した変異体を作製したところ、細胞の自己増殖が見られなくなり、キナーゼドメインのチロシンリン酸化が細胞増殖に必須であることが示された。
さらに、LYNの下流のシグナルであるmTORの阻害剤であるラパマイシンを投与したところ、単剤でもNCOR1-LYN導入細胞の増殖抑制が確認され、ダサチニブと併用したところ単剤投与より有意な細胞増殖抑制が確認された。
最後に、NCOR1-LYN陽性ALL患者白血病細胞を免疫不全マウス(NOGマウス)に移植し、生着したのを確認後、ダサチニブを投与。その結果、対照群と比較してマウスの生存期間が有意に延長したことが確認された。
LYN関連融合遺伝子を有する白血病症例において、ダサチニブを使用することにより治療成績の向上につながることが期待される。また、ダサチニブを用いた化学療法で効果が不十分な際にラパマイシンの併用も治療選択肢として挙げられる、と研究グループは述べている。
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