ニューモシスチス肺炎発症にHIV感染進行以外の影響はあるのか?
群馬大学は12月24日、後天性免疫不全症候群(AIDS:エイズ)患者の代表的な合併症であるニューモシスチス肺炎の発症(PCP)に、患者の自然免疫系を担うマンノース結合レクチンの遺伝子型が関係していることを世界で初めて報告したと発表した。この研究は、同大医学部附属病院感染制御部の柳澤邦雄助教(研究当時、血液内科所属)らの研究グループが、長崎大学熱帯医学研究所、タイ王国保健省生命医科学研究所との共同研究として行ったもの。研究成果は、「PLOSONE」に掲載されている。
画像はリリースより
AIDSは結核やマラリアと並ぶ世界3大感染症の1つとされ、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染後、患者の免疫細胞(CD4陽性リンパ球)が破壊されることによってPCPなどの合併症を生じる一連の症候群。CD4陽性リンパ球がどの程度減少しているかが重要な目安となり、特にPCPは患者血液中のCD4陽性リンパ球が200/µL未満になるまで感染が進行した患者に多く発症することが知られている。この状況は人生の途中で感染したHIVによる影響と考えられてきたため、患者自身の生まれつきの性質がPCPの発症に与える影響に関しては、これまであまり注目されて来なかった。
自然免疫系を担うMBLの産生力が低い遺伝子型で合併率が高い
柳澤助教は、PCPでAIDS発症した患者のCD4陽性リンパ球数が実際には幅広く分布することに着目し、HIV感染の影響のみならず、患者自身に生まれつき備わった性質の影響があると考えた。免疫系は非常に複雑だが、なかでもニューモシスチスのような病原体に直接結合して反応する仕組み(自然免疫系)に着目し、その代表的な構成物質であるMBLの遺伝子型を通院中の患者血液を用いて調べた。その結果、MBLをつくり出す力が低い遺伝子型を有すると、PCPの合併率が高い傾向にあることをすでに報告している。
長崎大学熱帯医学研究所の有吉紅也教授(臨床感染症学)は柳澤助教の報告に着目し、タイ王国北部ランパン病院で登録された未治療HIV感染者の既存データベースを活用しながら、AIDSに関連した合併症、特にPCPとMBLの関係を国際共同研究として再検証することになった。その結果、MBLをほとんどつくり出すことができない遺伝子型(欠損型)の患者は、明らかに観察期間中のPCPの発症率が高いと判明。この傾向は、CD4陽性リンパ球数が200/µL未満であるか否かを考慮に入れた解析方法でも同様に示された。一方、タイ王国でAIDS患者に多く認められる他のAIDS関連疾患(結核、トキソプラズマ症、ペニシリウム症、クリプトコッカス症)の発症とMBL遺伝子型との関連性は確認できず、特にPCPがMBL欠損の影響を受けやすいことが確認された。
HIV感染症の治療は日々進歩しており、早期の診断と抗ウイルス薬の服用でPCPを含むAIDSの発症を防ぐことができるようになっている。一方で医療の高度化に伴い、免疫が抑制された状態の患者が増加している。今回の研究で、投薬の効果を差し引いた、患者個人の性質がPCP発症に影響することが示された。研究グループは、「今後はPCP発症リスクの高い患者さんを見分ける手段の1つとして、本研究で得られた知見の活用が期待される」と、述べている。
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