糖尿病患者の膵がんリスクは一般人口の約2倍
東北大学は12月24日、糖尿病の新規発症や増悪を契機に無症状の段階で発見された膵がんでは比較的早期の膵がんや手術可能な症例が多く、症状が出てから診断された膵がんに比べて生存期間が2倍以上長いことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科消化器病態学分野の滝川哲也特任助手、正宗淳教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Tohoku Journal of Experimental Medicine誌」電子版に掲載されている。
画像はリリースより
膵がんは、早期発見が難しく、5年生存率が10%程度とされる難治がんだ。多くの症例は、腹痛や黄疸といった症状が出てから診断されるが、その時点ではすでに肝臓などに転移をしていることが多く、手術で切除可能な患者は2割程度に過ぎない。
一方、いわゆる早期の膵がんの治療後経過は比較的良好であり、その4分の3が検診や他疾患の検査時など、無症状の時点で診断される。したがって、症状が出ていない段階で膵がんを早期診断することが、治療成績向上のためには大変重要だ。しかし、一般住民を対象とした膵がん検診は現時点で推奨されておらず、早期発見には高いハードルがある。
糖尿病は膵がんの危険因子であり、糖尿病患者における膵がんリスクは一般人口の約2倍とされている。そのリスクは、糖尿病発症から間もないほど高いことから、膵がんが原因となり血糖のコントロールが悪化する可能性が指摘されている。実際、糖尿病の新規発症や悪化を契機に膵がんが発見されることがある。しかし、糖尿病を契機に発見された膵がんの特徴や治療後の経過は明らかではなかった。
症状を契機に診断の膵がんより生存期間が2倍以上長く
今回、研究グループは2010~2018年の9年間に東北大学病院で診断された膵がん489例について、その診断契機と臨床での特徴や治療後経過との関連を解析した。489例のうち、318例は腹痛や黄疸などの症状を契機に、118例は無症状時に検診や他疾患の検査を契機に、53例は無症状時に糖尿病の新規発症や血糖コントロールの悪化を契機に膵がんと診断された。
症状を契機に診断された膵がんでは、ステージ0やステージ1など比較的早期の膵がんは8%に、手術可能な症例は27%であったのに対し、糖尿病を契機に診断された膵がんでは40%が比較的早期の膵がんであり、60%の症例が手術可能だった。検診や他疾患の検査で偶然発見された膵がんにおいては35%の症例が比較的早期の膵がんであり、68%の症例が手術可能だった。
症状を契機に診断された膵がんでは、生存期間の中央値が343日(11か月)であったのに対し、糖尿病を契機に発見された膵がんでは771日(26か月)と2倍以上長く、検診や他疾患の検査中に診断された膵がんでの869日(29か月)とほぼ同等だった。
膵がんの治療成績向上に期待
今回の研究成果により、糖尿病に注目し早期に診断し治療することで、膵がんの治療成績向上につながることが期待される。
研究グループでは、どのような糖尿病患者を対象に膵がんの精密検査を行うべきか、すでに多施設での検討を進めているとしている。
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・東北大学 プレスリリース