楽器練習と脳の加齢について、脳活動の変化から調べた初の研究
京都大学は12月24日、高齢者が初心者として楽器の練習に取り組むことで認知機能が向上することを、脳活動の変化から確認したと発表した。この研究は同大大学院総合生存学館の積山薫教授、郭霞特別研究学生(研究当時、現・熊本大学博士課程学生)、山下雅俊特任助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Human Brain Mapping」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
楽器の練習が脳の加齢による衰えを食い止めるのに有効なのではないか、という考え方は一般に流布していると思われるが、学術的な裏付けはほとんど行われていない。特に、因果関係を議論できる介入研究の形で、脳活動の介入前後の変化を調べた研究は皆無だった。
楽器訓練で言語記憶など認知機能向上をもたらすポジティブな変化を確認
今回、研究グループは、楽器を習ったことのない高齢者を対象に、新たに楽器の訓練に取り組むことで認知機能の向上とそれに関連する脳活動の変化がみられるかどうかを、機能的磁気共鳴画像化法(fMRI)を用いた脳活動の計測を取り入れたランダム化比較試験の枠組みで検討した。平均年齢7歳の66人の健常高齢者をランダムに2群に分け、まず各種検査で認知機能に両群で差がないことを確認した後、一方には楽器(鍵盤ハーモニカ)のグループレッスンを4か月受けてもらい(介入群)、もう一方はその期間に待機し(統制群)、4か月後に両群間にどのような違いが生じるかを調べた。
その結果、言語記憶の成績に有意な介入効果がみられ、楽器訓練によって楽器の演奏とは直接関係しない言語記憶が向上することが示唆された。また、平易なワーキングメモリー課題をしている際の脳活動をfMRIで調べたデータでは、介入による「神経処理効率化」がみられた。神経処理効率化の1側面として、介入後により少ない脳活動で同じ成績を上げることができるようになる「活動減少」がいくつかの脳部位で生じていた。さらに、ある脳部位間(左被殻-右上側頭回)の「活動の同期性の減少」が言語記憶の成績向上と相関しており、神経処理効率化が認知機能向上の神経基盤であることが示唆された。これらの結果は、楽器訓練を受けた介入群において、認知機能向上をもたらすポジティブな変化が脳で起こったことを示している。
以上から、高齢期の楽器訓練は認知機能を向上させることがわかった。ただし、今回は4か月の訓練直後の結果についての知見であり、加齢による認知機能低下が顕在化すると思われる数年後にそうした機能低下を食い止める持続的な効果があるのかは、改めて調べる必要がある。また、本研究の介入で用いた集団での楽器演奏は、「社会的交流」の側面と、「認知訓練」としての側面があり、どちらの効果による結果なのかは現段階では不明だ。「こうした限界はあるものの、集団で楽器を演奏するプログラムの有効性は確認されたと言える」と、研究グループは述べている。
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・京都大学 研究成果