FDA承認薬ライブラリーからOSCC、ESCCに対する新規抗がん剤候補を探索
東京医科歯科大学は12月23日、既承認薬再配置(Drug repurposing:DR)の概念をもとに、766種類の薬剤を搭載したFDA承認薬ライブラリーを用いた解析から高脂血症治療薬のピタバスタチンに抗がん作用があることを見出したと発表した。この研究は、同大難治疾患研究所・難病基盤・応用研究プロジェクト室の村松智輝助教、分子細胞遺伝分野の稲澤譲治教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Molecular Cancer Research」に掲載されている。
画像はリリースより
口腔・食道扁平上皮がん(OSCC、ESCC)は、比較的リンパ節転移をしやすく、予後不良な疾患。現在までにOSCC、ESCCに対する特効薬となるような抗がん剤は開発されていないため、その開発は喫緊の課題となっている。しかし、抗がん剤の開発には多くの時間や費用がかかる。近年、既に他の疾患に認可されている薬剤を異なる疾患に応用しようという取り組みであるDRの概念が広まりつつあり、アスピリンを代表とする複数の薬剤がその適応を拡大させている。DRのメリットはヒトでの安全性が確保されていることや作用機序が明らかとなっている薬剤を他の疾患で検討するため、開発にかかる時間や費用を大きく削減できることだ。このような背景から、今回、研究グループは、FDA承認薬ライブラリーを用いてOSCC、ESCCに対する新規抗がん剤候補を同定することを試みた。
ピタバスタチンがMETシグナル阻害でOSCC細胞の増殖を抑制
研究グループは、766種類のFDA承認薬を搭載したライブラリーと高転移性を有するOSCC細胞株(HOC313-LM)を用いて、細胞増殖抑制効果を有する新たな抗がん剤候補の探索を実施。その結果、ピタバスタチンが顕著にがん細胞の増殖を抑制することがわかった。ピタバスタチンはメバロン酸経路を阻害する薬剤であり、脂質異常症治療薬として臨床応用されているが、がん領域での適応はない。ピタバスタチンは、METのプロセシングを阻害することによりMETシグナルを阻害し、ERK、AKT活性を低下させることで細胞増殖を抑制した。
ピタバスタチン+カプマチニブ併用で増殖抑制効果が増強
また、MET阻害剤であるカプマチニブとの併用により、ピタバスタチン単剤よりも強い細胞増殖抑制効果を示した。さらにピタバスタチンの感受性は、メバロン酸経路代謝産物であるGGPPの合成酵素であるGGPS1遺伝子の発現に依存する傾向が認められた。以上より、ピタバスタチンおよびカプマチニブとの併用は、OSCC、ESCCの新たながん治療戦略となる可能性があり、その感受性においてGGPS1の発現量が重要であることが明らかとなった。つまり、ピタバスタチンの細胞増殖抑制効果を予測するために、がん細胞中のGGPS1の発現の確認が重要であり、適用患者の層別化バイオマーカーとして利用できる可能性が示された。今後、OSCC、ESCCに対するピタバスタチンを用いた新規がん治療法の開発が期待される。
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