一部のIBMFS症例は原因遺伝子変異が未同定
名古屋大学は12月21日、アルデヒド代謝に関連するALDH2とADH5の同時2遺伝子変異が、造血不全、精神遅滞、低身長・小頭症を主徴とする遺伝性骨髄不全症候群の発症原因であることを突きとめ、新規疾患概念として「AMeD(aplastic Anemia, Mental retardation, and Dwarfism)症候群」を提唱したと発表した。この研究は、同大環境医学研究所/医学系研究科の岡泰由講師、濱田太立病院助教、髙橋義行教授、小島勢二名誉教授、および荻朋男教授を中心とした研究グループによるもの。研究成果は、「Science Advances」に掲載されている。
画像はリリースより
遺伝性骨髄不全症候群(IBMFS)は、造血細胞の分化・増殖異常により正常な血液を産生することができない疾患群で、発症頻度が数万から数十万人に1人と極めてまれだ。これまでに、ファンコニ貧血(FA)、先天性角化不全症(DC)、ダイアモンド・ブラックファン貧血(DBA)などがIBMFSとして知られている。FAではDNA二本鎖間の架橋修復機構の異常、DCではテロメア長の維持機構の破綻、DBAではリボソームタンパク質の成熟機構の異常により発症することが明らかになっているが、一部の症例では、疾患の原因となる遺伝子変異の同定には至っていなかった。
日本人でADH5遺伝子変異を同定、しかし単独欠損では発症しない
今回、研究グループは、日本医療研究開発機構による難治性疾患実用化研究事業(オミックス解析拠点、未診断疾患イニシアチブ、難病プラットフォーム)ならびに日本小児血液学会再生不良性貧血/骨髄異形成症候群中央診断システムで集めた、小児期に造血不全、知能低下、顕著な低身長・小頭症を示すIBMFSから、日本人8家系10人のゲノム解析を実施。結果、アルデヒド代謝に関連する酵素であるADH5遺伝子に変異が生じていることを見出した。
しかしながら、過去の研究結果から、ADH5遺伝子の単独欠損では病気の発症に至らない可能性があることから、東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)、京都大学(HGVD)、東京大学(BBJ)が持つ日本人ゲノムデータベース、京都大学(長浜スタディ)ならびに愛知県がんセンター(HERPACC)によるコホート事業で集めた日本人ゲノムの中から、ADH5遺伝子変異の有無を調べた。その結果、健康な女性1人からADH5の機能不全を生じさせる遺伝子変異が見つかった。これは、病気がADH5の単独欠損では発症しないことを示唆している。
ALDH2とADH5の2遺伝子同時機能欠損で発症
そこで、研究グループは、ADH5遺伝子の単独欠損に加え、他の遺伝子の機能不全で生じる同時2遺伝子変異の可能性を考えた。ALDH2は、アルデヒドの代謝に関係する酵素で、約40%の東アジア人集団(世界人口の8%相当)が一塩基多型/変異アレルを持っており、アルコールフラッシングの原因としてよく知られている。ヒト細胞の中には、父親と母親由来の遺伝子があるが、どちらか一方のALDH2遺伝子が変異アレルの場合は、ALDH2の酵素活性が5~20%に低下するのに対して、両方ともが変異アレルの場合はALDH2の機能が完全に無くなる。
ALDH2の変異アレルの有無は、FAや特発性再生不良性貧血といった病気の疾患発症時期に影響を及ぼすとの報告がある。そこで、ALDH2変異アレルの有無を検討した結果、「すべての患者が少なくとも1つは変異アレルを持っていること」「2個の変異アレルを持っている患者は、どちらか一方だけが変異アレルの患者と比較して症状がより重篤であること」「日本人大規模コホートで見つかったADH5遺伝子変異を持っている健康な女性は変異アレルを持っていないこと」が明らかになった。これらの結果から、ALDH2とADH5の2遺伝子同時機能欠損が、造血不全、精神遅滞、低身長・小頭症を主徴とするIBMFSの発症原因であることを突きとめ、新規疾患概念として「AMeD (aplastic Anemia, Mental retardation, and Dwarfism) 症候群」を提唱した。
モデルマウス作製、患者と同様の病態を観察
患者で見つかった病的変異に相当するALDH2とADH5の変異を導入したAMeD病態モデルマウスを作製したところ、患者で見られた造血不全、成長障害などが観察され、その表現型はAldh2の変異アレルの数に規定されていることが明らかになった。
今回の研究により、「AMeD症候群」と他のIBMFSとの鑑別が可能となった。機能不全を引き起こすADH5遺伝子変異の保有頻度から、「AMeD症候群」の発症頻度は、日本において1年間で数人程度と予測される。また、アルデヒド代謝異常により「AMeD症候群」が発症することは明らかになったが、疾患発症の分子病態や発症機序については依然として不明であることから、「さらなる解析が必要となる」と、研究グループは述べている。
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