アスリートのパフォーマンス向上に「適切な睡眠コンディショニング」が重要
筑波大学は12月18日、パラリンピックの視覚障がいアスリート81人のデータを検討した結果、日常的にスポーツ活動を行っている視覚障がいアスリートの睡眠の質が、晴眼アスリートとほぼ変わらない可能性が示されたことに加え、睡眠障害に「午前7時台以降の起床」と「競技活動上の人間関係ストレッサー(ストレスを起こす要因)」が強く関連していることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大体育系 武田文教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Sleep Medicine」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
日常的にハードなトレーニングを行うアスリートにとって、適切な睡眠コンディショニングはパフォーマンスを向上させるうえで不可欠だ。一般に、視覚障がい者は晴眼者に比べて睡眠障害が多いことが報告されているが、日常的にスポーツ活動を実施している視覚障がい者における睡眠障害の実態や関連要因については、これまでほとんど明らかにされていなかった。
そこで研究グループは今回、視覚障がいアスリートにおける睡眠障害の実態と関連要因を明らかにすべく、検討を行った。
起床が午前7時台以降で睡眠障害5.50倍、人間関係ストレッサーが多いと9.42倍
研究では、2017年10月~2018年10月に、パラリンピック種目(マラソン、ゴールボール、水泳、ブラインドサッカー、柔道)の各競技団体に所属する視覚障がいアスリート99人に自記式質問紙調査を実施し、完全回答を得た81人(有効回答率81.8%)を分析対象とした。対象者の平均年齢は32.5±12.0歳、7割が男性、6割が日本代表選手で、視覚障がいの状況(障がいの程度に基づく競技クラスの内訳)は、B1が4割・B2が3割・B3が3割、競技活動平均日数は5日/週だった。睡眠障害の実態について検討した結果、32.1%(26人)が「睡眠障害あり」と判定されたが、これは晴眼アスリート(日本代表選手)とほぼ変わらない水準だった。
また、睡眠障害の関連要因について、同研究チームが晴眼アスリートに関する研究で用いたものと同じ変数[生活習慣(就寝時刻、起床時刻、飲酒、食事、アルバイト、消灯後の電子機器使用)、競技活動(週当たりの練習時間、週当たりの朝練習=午前9時以前の練習=と夜練習=午後9時以降の練習=の頻度、競技ストレッサー、メンタルヘルス)]を用いて、属性(年齢、性別、Body Mass Index、視覚障がいの発症時期、障がいの程度に基づく競技クラス)を調整した多重ロジスティック回帰分析により検討した。
その結果、睡眠障害と強い関係がみられたのは「起床時刻」と「競技活動上の人間関係ストレッサー」だった。起床時刻が午前6時台の者と比べ、午前7時台以降の者は「睡眠障害あり」の相対リスク(調整後オッズ比)が5.50倍(95%信頼区間1.04–29.06、p<0.05)、競技活動上の人間関係ストレッサーが少ない者と比べ多い者では「睡眠障害あり」の相対リスクが9.42倍(95%信頼区間1.50–59.23、p<0.05)となった。
つまり、視覚障がいアスリートの睡眠障害には、午前7時台以降の遅めの起床と、「競技活動の友人の悩みやトラブルに関わった」「競技活動で友人に裏切られた感じがした」「競技活動の友人や仲間から批判されたり誤解されたりした」などの競技活動上の人間関係ストレッサーが関連していることが明らかとなった。晴眼アスリートに関するこれまでの研究からは、「午前7時台以前の起床」「競技活動の意欲喪失ストレッサー」「メンタルヘルス」等が睡眠障害に関連することが明らかにされている。今回の結果はこれらの傾向とは異なっており、視覚障がいアスリートの睡眠コンディショニングのカギとなる重要ポイントが示唆された。
人間関係ストレッサーの低減と起床時刻の調整を中心とした対策が必要
今回の研究で明らかになった知見より、視覚障がいアスリートの睡眠障害の割合が、晴眼アスリートとほぼ変わらないことが示唆された。これは、日常的にスポーツ活動を実施することが睡眠の質に良い影響を及ぼしている可能性が考えられる。
「睡眠障害の関連要因は晴眼アスリートの傾向とは異なり、競技活動上の人間関係ストレッサーや午前7時台以降の遅めの起床であることから、視覚障がいアスリートの睡眠コンディショニングには、特に競技活動に関わる人間関係ストレッサーの低減と起床時刻の調整を中心とした対策が望まれる」と、研究グループは述べている。
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