旅行や乗り物に関連したCOVID-19事例の数少ない報告
国立感染症研究所は12月16日、10月中旬に行われた北海道周遊バスツアー(3泊4日、バス4台に国内各地からの参加者146人とスタッフ12人が分乗)の参加者の中から、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の症例が複数確認されたことを受け、旅行や乗り物に関連したCOVID-19事例の報告は少ないため、その状況と得られた課題についてまとめた結果を病原微生物検出情報(IASR)の速報として発表した。
当該ツアー参加者のうち、2020年10月に検査で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が検出された人を症例と定義した。最初に探知された症例(探知症例)は、ツアー終了後、発熱が続くことから京都府内の医療機関を受診しCOVID-19と診断された。京都府は、探知症例の搭乗していた1号車バス(座席数は補助席を除き49席)の同乗者40人(乗客37人、スタッフ3人)を濃厚接触者とするとともに、濃厚接触者が居住する自治体へ連絡を行った。連絡を受けた各自治体は、濃厚接触者に対して検査を実施するとともに最終曝露(ツアー最終日)から14日間の健康観察を行った。2号車から4号車のバス乗客の健康情報については、旅行会社からも確認が行われた。各自治体と旅行会社から得られたツアー参加者と濃厚接触者の健康情報およびツアー内容に関する情報からまとめられた、同事例の全体像、感染経路、バスツアーにおける感染管理は、以下の通り。
ツアー参加者40人、うち感染届け出19例で18例は1号車
症例は、7道府県12自治体から届け出られた計19例(11月13日時点)。女性が10例(53%)で、乗務員の感染者1例を除く18例の年齢は、50~80代だった。診断時の症状は14例(74%)が「あり」、5例(26%)が「なし」だった。1例は人工呼吸器管理が必要な重症となったが、死亡例は確認されていなかった。探知症例は、ツアー参加者の中で最も早くツアー初日に発症した症例で、微熱等の症状を認めていたが、4日間ツアーを継続していた。症例の発症は、ツアー開始7日後をピークに19日後まで続いた。ツアー中の発症者として、探知症例以外にツアー最終日に発症した1例がいた。ツアー開始19日後に発症した人は、ツアー最終日を最終曝露日とした場合、COVID-19の最大潜伏期間である14日を経て発症したことから、一緒にツアーに参加した同行者を通してツアー終了後に感染したことが疑われた。
18例(95%)が1号車に搭乗しており(累積罹患率44%、18/41、探知症例を含む)、1例が4号車に搭乗していた(同3%、1/38)。4号車の症例については、他症例との関連は不明であった。探知症例を除く18例(1号車17例、4号車1例)では、発症または検体採取前14日から診断までの間に、バスツアー関係者症例以外で、COVID-19患者との接触歴は確認されなかった。探知症例については、同居家族1人と別居親族2人が探知症例とほぼ同時期にCOVID-19を発症していた。また、バスツアー関連症例からの、ツアー終了後の職場曝露による2次感染と考えられた症例が1例確認された。なお、1号車には、検査で陰性と判定されたが、ツアー後の健康観察期間中に発熱や呼吸器症状を呈していた人が他に2人いた。
バス内では常時マスク着用、水分補給OK、飲食はNG、走行中は窓閉めエアコン
乗客は、ツアー中には、バス以外で宿泊施設や休憩所を利用したが、それらの利用時には症例が一堂に接触する機会は乏しかった。車内の座席は日替わりで、ツアー2日目と3日目に症例集積を認めており、特に探知症例と同じ縦列や前後2列に発症者が多いことが疑われた。休憩等をはさみ1回の走行は平均53分、最長で1時間55分走行していた。車内にて乗客、スタッフは常時マスクを着用していた。手指衛生については、乗務員からの呼びかけはあったが、乗降時に全員が毎回、実施していたかどうかの確認までは行われていなかった。バス内は、走行中、窓を閉めた状態でエアコンが作動していた。車内の空気の流れは、概ね、エアコン部位から外気を取り込み、バス後方から車外へ排出されることになっていた。
休憩時は、車内に参加者が残っていることがあり、その間バスはエンジンを切り、窓が開けられていなかったことがあった。車内での飲食は、水分補給は可能だが摂食は控えるよう呼びかけがなされていた。また車内での会話は、特に呼びかけはなされていなかったが、騒がしい状況ではなかったとのことであった。旅行中の乗務員と乗客の健康状態の確認と記録は、旅行会社によりツアー開始時のみ行われていたが、ツアー中には行われていなかった。探知症例はツアー開始時に旅行会社に体調不良を報告していたが、4日間ツアーを継続していた。なお、往路航空機内では、症例は2便に分かれており、症例が座席によって集積している状況は認められなかった。復路航空機内の症例座席については、座席表が作成されておらず、十分な確認ができなかった。
座席の偏りなどから「車内での感染が最も疑わしい」
今回の事例では、バスツアーに関連した症例が19例認められ、うち18例が1号車バスに乗車していた。その18例のうち、探知症例とツアー終了後にツアー同行者から感染した可能性が高い1症例を除く16症例では、バスツアー以外に明らかな確定症例との接触歴がなかったこと、ツアー中に過ごす時間としては、バス車中が最も長く、他の活動で確定症例同士が密に接する機会が乏しかったこと、バス座席に確定症例の偏りが認められたことから、車内での感染が最も疑わしいと考えられた。バス車内では飛沫伝播の範囲(1m)を超えて感染が広がっており、探知症例の席を中心に、空気の流れに沿って縦方向に感染者が確認されていた。他に報告されているバス内での感染事例同様、飛沫伝播に加え接触伝播での感染拡大の可能性があり、さらに密閉密集状況であったことから、マイクロ飛沫による伝播が寄与した可能性も考えられた。なお、今回の調査の限界として、往復航空機内の濃厚接触者の確認ができず、航空機内での感染が完全に否定できないことが挙げられている。
健康観察のダブルチェック、車内での密を避けるなど、各所連携して対応を
今回の状況を踏まえ、感染防止対策として、旅行事業者は、参加者とスタッフの健康観察を、現地ならびに本部とでダブルチェックする体制をとり、加えて旅行中の参加者の健康状態の確認と記録、および体調不良の訴えがあった場合の適切な対応を行うことが重要であることが挙げられた。また、従来通りの、バス車内でのマスク着用、密な状況をできるだけ短時間にすること、乗降前の手指衛生、という推奨に加え、バスと航空機の参加者座席の記録と保管、休憩時の換気と高頻度接触面を中心とした車内環境表面の清掃消毒、車内での軽食を含めた食事の禁止と健康を維持できる最小限の飲水にすることが望ましいと考えられた。
今回の調査結果を受け、同研究所は次のように述べている。「旅行会社のツアーには、COVID-19が重症化しやすい高齢で基礎疾患を有する人の参加も多く、ツアー関連クラスターが疑われた時には、迅速に濃厚接触者を同定し、フォローアップを行うことが求められる。さらに、バスや航空機を利用した旅行では、事例発生時には広域対応が必要となることが多く、地方自治体や保健所だけでは旅行会社や航空会社との迅速な調整が難しい場合がある。観光庁、厚生労働省、および関連省庁の密な連携が重要であり、国は、旅行関連感染症危機事例の広域対応時における、関係省庁と旅行会社との役割分担、対応フローの作成、および関係者への周知と訓練を実施することが望ましい」
同研究所は同速報の末尾で、協力を受けた自治体関係者、厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策本部、観光庁、旅行会社の方々に謝辞を述べている。
▼関連リンク
・国立感染症研究所 病原微生物検出情報(IASR)