核内脂肪滴形成のメカニズムと、セイピンが核内脂肪滴形成にどのように関わるのかを明らかに
順天堂大学は12月15日、細胞の核内に存在する脂肪滴が、細胞質内の脂肪滴とは異なるメカニズムで形成されることを明らかにしたと発表した。これは、同大大学院医学研究科 老人性疾患病態・治療研究センターの藤本豊士特任教授らの研究グループと、名古屋大学、滋賀医科大学との共同研究によるもの。研究成果は、「Journal of Cell Biology」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
脂肪滴は細胞が過剰な脂質を蓄えるための構造。脂肪細胞の脂肪滴の存在は古くから知られていたが、最近の研究で、脂肪細胞以外の細胞にも脂肪滴が存在することや、脂質貯蔵以外にもさまざまな機能を持つことが明らかになってきた。また、脂肪滴の形成に関わるタンパク質の異常が、いろいろな病気の原因となっていることもわかってきた。セイピンはそのようなタンパク質の1つで、脂肪滴の形成において重要なだけでなく、正常な脂肪組織の形成に必須であることが知られている。しかしセイピン分子の機能の詳細はまだよくわかっていない。
一方、脂肪滴の大半は細胞質に存在するが、核内にも少数の脂肪滴があり、細胞質の脂肪滴とは異なる生理機能を持つと考えられている。しかし、核内脂肪滴が形成されるメカニズムについては、細胞質脂肪滴以上に不明点が多く残されている。
今回の研究は、核内脂肪滴がどのようにして作られるのか、細胞質脂肪滴の形成に重要な役割を持つセイピンが核内脂肪滴の形成にどのように関わるのかについて解明するために行われた。
細胞質の脂肪滴形成に必要なセイピンの減少により、核内の脂肪滴形成が増加
脂肪滴の形成には、トリグリセリドなどが合成されることが不可欠だ。研究では、トリグリセリド合成に必要な酵素タンパク質の大多数が、従来から知られていた小胞体だけでなく、内核膜にも分布することを明らかにし、脂肪滴を蛍光標識するマーカーを用いて内核膜で脂肪滴が形成される様子を動画撮影することに成功した。また、トリグリセリド合成に必要なタンパク質の1つであるリピン1が、細胞質から核内に入り、核内脂肪滴周囲に分布することも発見した。リピン1は、ホスファチジン酸をジアシルグリセロールに変換する酵素で、ジアシルグリセロールがトリグリセリドになることで脂肪滴が形成される。
次に、セイピンの機能について検討した。セイピンは小胞体だけにあり、内核膜には存在しないこと、またセイピンの量を減少させると、細胞質脂肪滴に異常が生じると同時に、核内脂肪滴が著しく増加することを見出した。その理由として、セイピンが減少することで、リピン1の発現増加と核内のホスファチジン酸の増加が起こり、その結果、核内脂肪滴増加が引き起こされることが判明した。
つまり、正常な細胞では小胞体で「ホスファチジン酸→ジアシルグリセロール→トリグリセリド」という反応が進み、細胞質脂肪滴が効率よく形成される。しかし、セイピンがないと上記の反応が滞るため、余剰のホスファチジン酸が内核膜に移動し、そこに発現が増えたリピン1が作用することによって、内核膜でのトリグリセリド合成が増加し、核内脂肪滴形成が促進されると考えられた。このようにして形成された核内脂肪滴は、遺伝子の転写調節など核内で起こる現象に影響し、セイピン欠損細胞に見られる異常の原因になる可能性が推測されるという。
全身性脂肪萎縮症など、セイピンの異常がもたらす疾患の病態解明進展に期待
今回の研究成果により、核内脂肪滴が形成される仕組みが解明され、セイピンの欠損が核内脂肪滴形成を促進する分子的な機序が明らかになった。セイピンの欠損は細胞質脂肪滴に異常をもたらすことが知られているが、同結果により、同時に核内脂肪滴を増加させることがわかった。肝細胞の核内脂肪滴は生体膜脂質の合成調節に重要な役割を果たすが、それ以外の細胞での核内脂肪滴の機能はまだ明らかになっていない。
「今回、核内脂肪滴の形成メカニズムが解明されたことにより、細胞質脂肪滴と核内脂肪滴の形成を別々に制御することが可能となった。これにより、核内脂肪滴についての研究が進展するだけでなく、セイピンの分子機能の理解が深まり、全身性脂肪萎縮症などセイピンの異常がもたらす疾患の病態解明が進むことが期待される」と、研究グループは述べている。
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・順天堂大学 プレスリリース