医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > ヒトiPS細胞を用いて肺胞上皮細胞の分化過程を追うことに成功-京大ほか

ヒトiPS細胞を用いて肺胞上皮細胞の分化過程を追うことに成功-京大ほか

読了時間:約 3分3秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2020年12月16日 AM11:45

II型肺胞上皮細胞からI型肺胞上皮細胞への分化過程を示す

京都大学は12月14日、ヒトiPS細胞から作製した肺胞上皮細胞の1細胞レベルでの遺伝子解析を行い、II型肺胞上皮細胞からI型肺胞上皮細胞が作られる過程を示したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科呼吸器疾患創薬講座の後藤慎平特定准教授、金墻周平同研究員、呼吸器内科の池尾聡大学院生ら、形態形成機構学の萩原正敏教授、呼吸器内科の平井豊博教授、東京大学大学院の鈴木穣教授らの研究グループによるもの。研究成果は、国際学術誌「Stem Cells」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより

II型肺胞上皮細胞からI型肺胞上皮細胞への分化は肺機能の維持に必須であり、この分化の異常は間質性肺炎の原因の一つと考えられるようになりつつある。この分化を評価する方法としては、II型肺胞上皮細胞を平面で培養する方法が知られていたが、できた細胞がI型肺胞上皮細胞に類似していない等の問題がある。そのため、現在、適切にII型肺胞上皮細胞からI型肺胞上皮細胞への分化を評価できる方法はなく、研究の制約となっている。

研究グループは、2014年にヒトiPS細胞から肺前駆細胞を単離して、3次元培養を行うことで肺胞上皮細胞を作製することに成功。さらに、iPS細胞から作製した肺胞上皮細胞は肺サーファクタントの構成成分であるサーファクタントタンパク質とサーファクタント脂質を産生しており、線維芽細胞とともに3次元培養することにより長期にII型肺胞上皮細胞の性質が保たれることを示した。iPS細胞からできたII型肺胞上皮細胞を線維芽細胞とともに3次元で培養した時に、II型肺胞上皮細胞以外の細胞が含まれることがわかっていたが、その細胞の種類はわかっていなかった。

そこで、研究グループでは、この細胞の種類を同定し解析することで、II型肺胞上皮細胞からI型肺胞上皮への分化を評価できるのではないかと考えた。

iPS細胞から作製のI型肺胞上皮細胞、ヒトI型肺胞上皮細胞と似た性質を有する可能性

まず、ヒトiPS細胞から作製した肺胞上皮細胞を線維芽細胞と一緒に3次元で培養した後に、含まれる細胞を1細胞遺伝子発現解析にて評価。その結果、I型肺胞上皮細胞が含まれることがわかった。一方、ヒトiPS細胞から作製したII型肺胞上皮細胞だけで3次元培養しても、I型肺胞上皮細胞は含まれなかった。これらの結果は、線維芽細胞が含まれている環境で3次元培養すると、iPS細胞から作製したII型肺胞上皮細胞がI型肺胞上皮細胞へと分化しやすいことを示唆するものだという。

さらに、このII型肺胞上皮細胞を線維芽細胞と一緒に3次元で培養する方法で得たI型肺胞上皮細胞は、ヒトの肺にあるI型肺胞上皮細胞と似たような遺伝子発現パターンを示すことが判明。この結果は、iPS細胞から作製したI型肺胞上皮細胞が、ヒトの肺に存在するI型肺胞上皮細胞と似た性質を有する可能性を示しており、iPS細胞からできた肺胞上皮細胞を使用することで、分化の過程を評価できることを示唆するものだとしている。

従来法では正常なI型肺胞上皮細胞への分化を評価できないことを示唆

続いて、iPS細胞から作製した肺胞上皮細胞を、従来の方法である平面培養によりI型肺胞上皮細胞へ分化させ、1細胞遺伝子発現解析を実施。その結果、一部に正常なI型肺胞上皮を含むものの、間質性肺炎で認められるような異常なI型肺胞上皮細胞が含まれることがわかった。

これは、従来の平面培養を用いた方法では正常なI型肺胞上皮細胞への分化を評価できないことを示唆するものであり、3次元培養にてI型肺胞上皮細胞への分化を行うことが理にかなった方法であることを支持するものだとしている。

XAV-939添加細胞、I型肺胞上皮細胞に特徴的な形の変化を伴う

I型肺胞上皮細胞への分化を促進させるために、化合物XAV-939を、3次元培養時に加えたところ、iPS細胞から作製したII型肺胞上皮細胞のうち70%以上がI型肺胞上皮細胞になることを示した。

さらに、XAV-939を添加した細胞は、I型肺胞上皮細胞に特徴的な薄い細胞になるという形の変化も伴っていたという。I型肺胞上皮細胞は、ガス交換を行うために特徴的な平たい形をしているが、XAV-939を添加することで模倣できた可能性があるという。

従来法では評価が難しかった、I型肺胞上皮細胞への分化解析に期待

ヒトiPS細胞は、永続的な増殖能と分化能を持っているため、多くの肺胞上皮細胞を作製することが可能だ。今回の研究により、ヒトiPS細胞を使用することで、従来の方法では評価が難しかったI型肺胞上皮細胞への分化を解析できることが示された。また、ヒトiPS細胞由来の肺胞上皮細胞の培養方法は、ウイルス感染による肺障害時の修復機構研究や、間質性肺炎で認められる分化異常の研究にも役立つと考えられる。

研究グループは今後、肺胞の修復促進や肺胞上皮細胞の分化異常を制御するような治療薬開発を目指して研究を進めていく予定だとしている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 血液中アンフィレグリンが心房細動の機能的バイオマーカーとなる可能性-神戸大ほか
  • 腎臓の過剰ろ過、加齢を考慮して判断する新たな数式を定義-大阪公立大
  • 超希少難治性疾患のHGPS、核膜修復の遅延をロナファルニブが改善-科学大ほか
  • 運動後の起立性低血圧、水分摂取で軽減の可能性-杏林大
  • ALS、オリゴデンドロサイト異常がマウスの運動障害を惹起-名大