小学生の虫歯未治療と、家庭の要因の関連を調査
富山大学は12月10日、富山県高岡市内の5つの小学校の全児童2,109人を対象に社会経済環境や親子の生活習慣などに関するアンケート調査(平成28年3月)を実施し、「虫歯を指摘されたが通院していない子ども」の特徴に関する新たな知見について発表した。これは、同大地域連携推進機構地域医療保健支援部門の大学院生(当時、現・明海大学)の浅香有希子歯科医師、山田正明助教、関根道和部門長らの研究グループが行ったもの。研究成果は、「Environmental Health and Preventive Medicine」に掲載されている。
画像はリリースより
子どもの虫歯は、痛みによる集中力の低下や学力の低下につながることが知られている。また、生活習慣の点からは、栄養不良や睡眠不足につながることが知られている。栄養不良があると、子どもの成長や発達にも悪影響があるほか、精神的な影響として、人前で笑えなくなるといった自己肯定感の低下と関連すると報告されている。
アンケート調査は、平成26年度に富山県教育委員会と連携して実施された文部科学省スーパー食育スクール事業の追加調査として行われた。回収数は1,987人(回収率:94.2%)、有効回答数は1,655人だった。
「父親が平日に2時間以上ゲームをする」家庭で虫歯放置の割合高く
分析の結果、虫歯が放置されている子どもは対象者全体の3.2%だった。生活環境ごとに見ると、「生活のゆとりがある」と答えた家庭で虫歯が放置されている子どもの割合は1.6%であったのに対し、「ゆとりがない」では4.8%と高くなっていた。年齢や性別等を考慮した分析の結果、「生活のゆとりがある」と答えた家庭の子どもを基準としたオッズ比は、「ゆとりがない」で2.78だった。
また、「父親のインターネット・ゲーム時間が2時間未満(平日)」の子どもの虫歯が放置されている割合は2.8%であったのに対し、「2時間以上」の子どもでは5.9%だった。年齢や性別等を考慮した分析の結果、「2時間未満」の子どもを基準とした虫歯の放置に対するオッズ比は、「2時間以上」で1.99だった。
さらに、子どもの「習い事あり」の家庭における虫歯が放置されている子どもの割合が2.5%であったのに対して、「習い事なし」の家庭の子どもでは6.2%と高くなっていた。年齢や性別等を考慮した分析の結果、「習い事あり」の子どもを基準とした未治療に対するオッズ比は、「習い事なし」で1.99だった。
低学年(1-3年生)の子どもの虫歯が放置されている割合は2.1%であったのに対し、高学年(4-6年生)の子どもでは4.4%でした。年齢や性別等を考慮した分析の結果、低学年の子どもを基準とした虫歯の放置に対するオッズ比は、高学年で2.08と判明した。
親への情報提供を含めた子どもの虫歯の予防や治療の啓発を
今回の研究から、子ども自身の要因よりも、家庭の要因が強く関連していることがわかった。子どもの虫歯の放置と最も強い関連を示したのは、「生活のゆとりがない」だった。海外では、医療保険制度の違いもあり、経済的に余裕のない家庭にデンタルネグレクトが多いことは報告されている。しかし、日本では経済的理由だけでは説明がつかず、「時間的な余裕がない」や「子どもの健康への関心が低い」などの経済的な理由以外の要因もあると考えられる。
「習い事をしていない」子どもの虫歯は放置される傾向が見られたが、習い事は子どもの生活習慣である一方、子どもの教育機会に関する指標であり、家庭の経済力の影響を受けることが知られている。そうしたことから「生活のゆとり」とともに関連性が出たものと考えられる。父母の生活習慣が良くない家庭で子どもの虫歯が放置される傾向があったが、特に統計学的に強い関連性は「父親の平日の家でのインターネット・ゲーム利用時間が2時間以上」の場合に認められた。父親のインターネット・ゲーム利用時間が長いことは、子どもへの無関心との関連が報告されており、家庭での会話が減って子どもの健康への気づきが遅くなることが考えられる。
加えて、高学年の子どもの虫歯が放置される背景には、「乳歯の虫歯の場合、永久歯に生え変わるので治療する必要がない」と考えているなどの理由が推測される。しかし、乳歯の虫歯を放置すると永久歯の形成不全のリスクが高まることや、乳歯で虫歯が多数ある子どもは永久歯でも虫歯が多い傾向があることが知られている。
研究グループは、「今後の方向性として、親への情報提供を含めた子どもの虫歯の予防や治療の啓発や、未受診者のフォローアップなどの仕組みづくりが必要」と、述べている。
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