日本人PTSD患者ではCRP遺伝子のSNPがPTSD症状に関連するのか?同じSNPと認知機能の関連も調査
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は12月14日、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状や認知機能に、CRP遺伝子が関与することを明らかにしたと発表した。この研究は、NCNP精神保健研究所の金吉晴所長、行動医学研究部の堀弘明室長、大塚豪士リサーチフェローらの研究グループが、NCNP神経研究所疾病研究第三部の功刀浩前部長(現・帝京大学精神医学教室教授)ら、名古屋市立大学大学院医学研究科精神医学教室の井野敬子助教ら、若松町こころとひふのクリニックの加茂登志子PCIT研修センター長、金沢大学国際基幹教育院(臨床認知科学研究室)の松井三枝教授と共同で行ったもの。研究成果は、「Journal of Affective Disorders」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
PTSD患者では、トラウマ的な出来事に関連した苦痛な記憶を繰り返し想起するなどの症状に加え、記憶や学習、注意、実行機能などの認知機能の障害がしばしば認められることが示されている。また、PTSDは炎症系の亢進に関連することも明らかになっている。今回の研究に先立ち研究グループは、PTSDの女性患者では健常対照女性と比較して、炎症性物質である血液中interleukin-6(IL-6)濃度が有意に高いことを見出した。この結果から、少なくとも、一部のPTSD患者さんにおいて炎症が亢進していることが示された。一方で、PTSD症状や認知機能障害の程度は、患者によっても異なる。このような個人差の原因は明らかになっていないものの、その一部に遺伝要因が関与している可能性が考えられる。最近の米国での研究において、CRP遺伝子のSNPがPTSD症状に関連することが報告された。
そこで今回の研究では、日本人PTSD患者において、先行研究でCRP血中濃度に影響することが示されているCRP遺伝子のSNPがPTSD症状に関連するかを調べた。さらに、同じSNPと認知機能の関連について、世界で初めて検討した。
CRP遺伝子のrs2794520多型が、PTSDにおける症状および認知機能と炎症に関連
同研究はNCNPが主幹研究機関となり、共同研究機関とともに実施しているPTSD研究プロジェクトで収集中のデータの一部を用いて実施。57人のPTSD女性患者および73人の健常対照女性を対象とした。
PTSDの症状はPTSD診断尺度(posttraumatic diagnostic scale:PDS)によって評価し、認知機能は標準化された神経心理学的検査バッテリーであるRepeatable Battery for the Assessment of Neuropsychological Status(RBANS)によって測定。採血を行って血液中のDNAを抽出し、CRP遺伝子rs2794520多型をPCR法により決定した。また、血液中の炎症マーカーである高感度CRP、高感度tumor necrosis factor-α(TNF-α)、IL-6の濃度を測定した。
その結果、PTSD患者群において、rs2794520多型のCC/CT群はTT群と比較して、有意にPTSD症状が強く、認知機能が低いことが示された。さらに、PTSD患者のCC/CT群はTT群と比較し、高感度CRP濃度および高感度TNF-α濃度が有意に高いことも見出された。健常者ではそのような関連は認められなかったという。これらのことから、CRP遺伝子のrs2794520多型は、PTSDにおける症状および認知機能、炎症に関連することが示された。
今回の知見がPTSDの病因解明や個別化治療法開発に寄与する可能性
今回の研究成果により、炎症系に影響するCRP遺伝子がPTSDの症状および認知機能に関連することが明らかにされた。同研究結果は、PTSDの病因解明や個別化治療法開発に寄与する可能性がある。「今後、炎症系に関与する他の遺伝子についての検討や、男性例での検討が進むことが期待される」と、研究グループは述べている。