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外科医が誕生日に行った手術死亡率、他の日より高い傾向-慶大ほか

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2020年12月14日 PM12:00

さまざまな要素が、死亡率に影響を与える手術のパフォーマンスに影響を及ぼしている

慶應義塾大学は12月11日、アメリカの65歳以上の高齢者を対象とした大規模な医療データを用いて、外科医の誕生日に手術を受けた患者の死亡率が、誕生日以外の日に手術を受けた患者の死亡率よりも高いことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院健康マネジメント研究科の加藤弘陸特任助教(研究実施時は慶應義塾大学大学院経営管理研究科訪問研究員)、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の津川友介助教授、ハーバード大学のAnupam B. Jena准教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「British Medical Journal(BMJ)」のクリスマス特集号にオンライン掲載されている。


画像はリリースより

手術のパフォーマンスは常に最適ではなく、20~30%の患者が手術後に合併症を経験し、5~10%の患者が手術後に死亡すると報告されている。そして、その合併症のうち40~60%が、死亡のうち20~40%が回避可能であったとの研究結果がある。

病院や医師に関するさまざまな要素が手術のパフォーマンスに影響を及ぼしていると考えられるが、外科医が目の前の患者の治療に集中できるかという勤務状況が、パフォーマンスに与える影響に関しては、十分検証されていなかった。着信音や医療機器のトラブル、手術内容とは必ずしも関係ない会話など、手術中の外科医の注意をそらすような物事は多く存在していると言われている。また、実験室で行われた実験では、外科医の注意をそらすような要素が外科医のパフォーマンス(タスク完了にかかる時間など)を引き下げる影響があることが示されている。しかし、これはあくまで実験であり、リアルワールドで外科医の注意をそらすような要素が患者にどのような影響を与えるのかについては検証されていなかった。

米国のビックデータ解析で、外科医の誕生日に手術を受けた患者の死亡率が他の日より1.3%増加することが判明

そこで研究グループは今回、誕生日に外科医がより注意散漫になることや、手術をより早く終えようと急ぐことが原因で、パフォーマンスが変わるのではないかという仮説を立てた。そして外科医の誕生日を、注意散漫な状況と外科医のパフォーマンスの関係を検証する「自然実験」とみなし(多くの患者は執刀医の誕生日を知らないため、それを基準に手術日を選ばず、また緊急手術に限定することで患者が手術日を選択する可能性を少なくした)、外科医の誕生日と患者の死亡率の関係を明らかにすることを目的に研究を行った。

アメリカの大規模医療データであるメディケアデータ(アメリカの高齢者を対象とした診療報酬明細データ)にCenters for Medicare and Medicaid Services(CMS)から入手した医師レベルの情報を結合し、手術を行った外科医の誕生日と患者の術後30日死亡率の関係を検証した。この関係を検証する際、外科医の固定効果を回帰モデルに投入することで、同じ外科医が治療した患者について、その手術日が外科医の誕生日だったか、誕生日以外だったのかを実質的に比較。もし、患者の重症度が誕生日と誕生日以外で異なっている場合、仮に死亡率に差があったとしても、その差は外科医側の要因ではなく、患者の重症度で説明されてしまう可能性がある。そこで同研究では、患者の年齢、性別、人種、併存疾患、予測死亡率などに関して、外科医の誕生日に手術を受けた患者と誕生日以外の日に手術を受けた患者を比較した。

この研究手法を用いて、2011~2014年に4万7,489人の外科医によって行われた98万876件の緊急手術を分析したところ、誕生日に手術を受けた患者は、年齢、性別、人種、併存疾患、予測死亡率などの点で、誕生日以外の日に手術を受けた患者とほとんど差がないことが明らかになった。その上で、患者の死亡率を比較したところ、外科医の誕生日に手術を受けた患者の死亡率は、誕生日以外の日に手術を受けた患者の死亡率よりも1.3%増加していた。

今後、日本でも同様なのかを検証し、高い医療の質維持のための知見を明らかにする予定

今回の研究では、大規模な医療データと計量経済学的手法を用いて、外科医の誕生日と患者の死亡率の関係について検証が行われた。そして、外科医の誕生日に手術を受けた患者と誕生日以外の日に手術を受けた患者を比較すると、外科医の誕生日に手術を受けた患者は死亡率が大きく増加していることが示された。これは、外科医のパフォーマンスが仕事とは直接関係のないライフイベントに影響される可能性を示唆している。誕生日以外でも注意散漫となり得るような特別な日には、外科医のパフォーマンスが低下している恐れがある。患者がいつ治療を受けるかに関わらず質の高い治療を受けられるように、注意散漫になり得る状況で勤務している医師に対するさらなるサポートのあり方を検討する必要があると考えられる。

「今後の研究では、本研究で明らかとなった関係がアメリカだけでなく、日本でも存在しているのかを検証することに加えて、医師のパフォーマンスを変動させる要因をさらに検証し、高い医療の質の維持するために必要な知見を明らかにする予定だ」と、研究グループは述べている。

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