ATACH-2試験の参加者をアジアと非アジア地域に分けて解析
国立循環器病研究センターは12月9日、Antihypertensive Treatment of Acute Cerebral Hemorrhage-2(以下、ATACH-2)試験のサブ解析によって、アジアの脳出血患者の特徴を明らかにしたと発表した。これは、同センターの豊田一則副院長、古賀政利脳血管内科部長らの研究グループが、海外の研究グループと共同で行ったもの。研究成果は、「Neurology」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
脳卒中は日本を含めたアジア諸国で発症率の高い病気で、特に脳出血は高率に起こる。その原因として、脳出血を惹き起こす頭蓋内細小動脈の硬化病変がアジア人に起こりやすいことが考えられる。脳出血は、脳梗塞と比べて死亡や重度後遺症をのこす割合が高く、脳梗塞よりも治療開発が遅れている。脳出血は日本やアジアが克服しなければいけない、重要な疾患だ。
国循の研究グループは、米国立衛生研究所(NIH)の助成を受けたP3無作為化比較試験ATACH-2に、国内14施設を集めて米国、中国、台湾、韓国、ドイツの研究者らと共に参加。発症から4時間半以内に治療開始可能な脳出血患者を中央無作為化方式で積極降圧群(収縮期血圧110~140mmHg)と標準降圧群(140~180mmHg)とに割り付け、降圧薬ニカルジピンの持続静脈注射によって24時間にわたって目標血圧範囲を維持した。その主要評価項目である90日後の死亡または高度機能障害の割合(脳卒中患者の自立度合を示す国際尺度modified Rankin Scaleでの4~6に相当)に、群間の有意差はなかった。この成果は、2016年にNew England Journal of Medicine誌に掲載されている。
今回のサブ解析では、ATACH-2試験に参加した患者を、アジアからの参加患者とそれ以外の地域からの参加患者に分け、各種臨床情報、臨床転帰や、積極降圧が転帰に及ぼす影響を調べた。
アジア群と非アジア群とで登録時臨床所見に大きな差
ATACH-2試験に登録された1,000例(うち日本人288例)を、日本、中国、台湾、韓国から登録された537例(全例がアジア人種)と、米国、ドイツから登録された463例(アジア人種25例を含む)に分けて検討した。同じ臨床試験の組み入れ基準で選ばれた患者ではあるものの、アジア群と非アジア群とで登録時臨床所見に大きな差を認めた。
特にアジア群で神経学的重症度を42点満点で評価するNIH Stroke Scale値がより低い(より軽症である)こと、血種部位として大脳基底核がより多く皮質下がより少ないこと、脳室内穿破する割合がより低いこと、発症してから試験に登録されるまでの時間が中央値で30分以上も短いことなどは、両地域間の脳出血に関する主要要因や医療体制の違いを示し、試験結果にも大きく影響を与えるものであったという。
90日以内の死亡率はアジア群1.9%、非アジア群13.3%
90日後の死亡または高度機能障害の割合は、アジア群32.0%対非アジア群45.9%と有意に低く、同じく90日以内の死亡率(1.9%対13.3%)もアジア群が有意に低くなった。一方で早期血腫拡大の割合(17.2%対19.7%)は同程度であった。いずれの評価項目にも降圧治療と地域群の有意な交互作用を認めなかった。また、アジア群のみで積極降圧による有意な血種拡大の抑制効果を認めた(調整相対リスク0.56、95%信頼区間0.38-0.83;非アジア群は0.82,0.58-1.15)。自己申告に基づく人種によってアジア人種562例、白人287例、黒人131例に分けて検討した場合も、アジア人種には同様の結果を認めた。
今後は地域差や人種差を考慮した試験遂行や結果解析が必要
同じ脳出血という病態でありながら、アジアからの患者と非アジアの患者とで背景要因や転帰に大きな差が生じること、特に90日後の転帰不良患者がアジア群で14%も少なかったことは、疾患の特性を考える上でも、また今後の国際的な臨床試験を企画する上でも、非常に興味深いことである。アジア群で概して転帰が良好であった原因として、初期重症度がやや軽かったことや発症後治療開始までの時間が早かったことなどが挙げられる。脳出血超急性期の積極的降圧療法が血腫拡大を有意に抑えたことも、アジア群の転帰良好に関連するかもしれない、と研究グループは考察している。
「このような地域差は特定地域だけで患者を募る研究では気付けず、国際的研究を行うことで初めて明らかになる。現在、急性期脳出血の新たな研究者主導国際無作為化比較試験(FASTEST試験、ClinicalTrials.gov Identifier:NCT03496883、jRCTs051200076)の試験開始に向けて準備中だが、脳出血の地域差、人種差を考慮した試験の遂行や結果の解析が必要だ」、と研究グループは述べている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース